2009年11月28日土曜日

137.杉並区堀ノ内 子宝湯

杉並区の銭湯、子宝湯を訪れた。

子宝湯といえば小金井公園敷地内にある「江戸東京たてもの園」に移築されたものを思い浮かべる事ができるが、こちらも立派な唐破風の宮造り銭湯だ。

新高円寺駅を降り、南に歩き始める。
最短距離で7分ほど。大通り沿いに行くともう少しかかる。

眼前に小学校があり、子供の成長を見守るかのようにこの銭湯は佇んでいる。
子宝湯は明日(2009.11.29)で廃業となる。そのため、建物の周りを歩きながら煙突を見上げている方や、長い時間をかけてその姿を写真に収めているお方もいらっしゃる。







16時過ぎ、屋号の入ったオリジナル暖簾を潜り中へ入る。
廃業を知らせる紙が傘入れの前に貼り出されていた。





松竹錠の下足入れに靴を預け、引戸を引き開けるとすぐに女将さんがいらっしゃる。



銭湯マップには番台と記されているが、番台はこちら向きになっており、脱衣場を見る事はできないようになっている。これなら脱衣場で盗みをしたりする輩などに目を配る事はできなくなるため、番台形式とは言い切れないような気もする。

番台というだけで敬遠するうちの奥さんのようなタイプのお方もいらっしゃるだろうし、ひと言銭湯マップにくらいは記述されていてもよかったのではないかと思う。「番台ですが、脱衣場は見えませんので、ほぼフロント形式といっていい銭湯です」と。

くるっと裏返った番台は光もあたらずやや暗い印象を受ける。開けた空間もないので常連客が居座ってのんびりお話、というのもしづらいようだ。

脱衣場は天井高く、折上格天井。外壁側は二段式になって低くなっている。
ローラーむき出しのクラシカルなマッサージ機があり、アナログ体重計はHOKUTOWの比較的新しいもの。どこを見ても明日廃業してしまうような雰囲気はない。

立派な庭もあり、シカの大きな置き物も顔を覗かせている。
柱時計も壁にかかり、浴室への引戸の上にある壁スペースに油絵がずらりとかかっている。世田谷区弦巻の「弦巻湯」にも油絵がいくつも脱衣場に置かれていた。何の因果か弦巻湯も廃業されている。

パパッと服を脱ぎ浴室へ。
白く清潔な床のタイルがまばゆいばかりだ。
天井高く二段式。湯客は7人ほどで、皆さん背景を見たり、思い出話をされたりしている。今の時代に順応した、活気ある銭湯だ。

島カランは一列で外壁側より7-5-5-7。外壁側には立ちシャワーが二基あり、そのせいもあって非常に窮屈なカラン配置。特に釜場側の壁のカランともなると、お子様用かと思うくらいに狭くなっている。

カランの湯温はややぬるい。まだ開店したてなので温まりも遅いのだろうか。湯客の多さもあるのかシャワーが時折全くでなくなる。きれいに磨かれたタイルや、お客の活気も感じるが、設備としては目に見えない部分で老朽化が進んでいるのかもしれない。

体をしっかり洗い浴槽へ。
これぞ東京銭湯と感じずにはいられない浅深の二浴槽。
両浴槽はへりの上から湯が行き来しているので湯の熱さ、質などはほぼ同じだろう。
まずは浅い方から。
こちらには赤い赤外線ライトが奥壁側に二基。そしてミクロバイブラ。
湯温は42℃ほど。まだ時間的に少々シャープさのある湯だが、それでも初めからマイルドさのあるやさしい湯だ。

洗い場では風呂椅子に腰掛け、鏡にではなく浴槽側に向かってじっと座っている方がいらっしゃる。まさか浴槽の客を見ている訳でもなく、背景を眺めているのだろうと思う。

深い浴槽に移り、背景を拝む。
(西伊豆)20.5.12と記されており、岩の縁の描き方、松を描く繊細なタッチ、全体的に淡い色使いの明るめなペンキ色構成から丸山氏の作品である事を確信する。
一年半ほど前の作品であり、ペンキの剥げた部分も目立ち始めている。

しっかり温まった所で湯から上がる。
脱衣場では思い出話が繰り広げられている。経営者の息子さんかと思われる方もいらっしゃる。自分は常連客ではなく、ただ東京銭湯が好きなだけであるが、やはり切ない気持ちは感じずにはいられない。

ケロリン桶が積み上げられ、「ご自由にお持ちください」とあったので記念に一つ頂いた。番台の女将さんにひと言ご挨拶をし、表に出る。

二度と来ないだろうという気持ちで銭湯を離れる事はないが、今日ばかりはどうしようもない。建築計画も貼り出されており、取り壊しも確実である。
なくなってしまう銭湯はいつまでも営業されている頃のイメージが皆の心に残る。それは悪い方向へ行く事は少なく、多くは良いイメージのままいつまでも心に染み込んでいるものだ。地元のかたは寂しいはずだが、銭湯の良さをなくなって気づく人も多いと思う。
日本人は大切な日本の文化を放り出して知らない振りをしていることに早く気づいた方がいい。



明日、子宝湯は営業が終わってしまうのでぜひ最終日に行く事ができる方は訪れて頂きたいと思う。




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