2010年1月22日金曜日

147.大田区矢口 富久湯

大田区の銭湯、富久湯(ふくゆ)を訪れた。

一週間の仕事の疲れを癒す為に、車で多摩堤通りを南下して下丸子駅を過ぎ、矢口渡駅あたりに向かう。富久湯には駐車場はないようだが、目の前に月極駐車場があり、その一角の3台分がコインパーキングになっている。



富久湯はマンション銭湯。グレイス多摩川というマンションの一階部分だが、入口が通りに面しておらず地味な印象。看板が一つ、「ふれあい銭湯」の文字を人通りの少ない通りに向けて照らし出している。あまりふれあいというのを前面に押し出されると、こちらとしては中に入りづらくなってしまう所だが気にせず入る。





下足入れはSAKURA-Gの錠前。
靴を預け、引戸から中に入る。すぐにフロントがあり女将さんが静かにお座りになっている。前は休憩所になっていてソファスペース。6人ほどが座れるがテレビを見ようと思ったら場所は限られ二人分くらいしかない。
女将さんに湯賃をお支払いしようとするがぴくりとも動かず静かにしている。しばらくすみませんと声をかけ続けるものの動かない。どうやら居眠りをされているようだ。

おばあさん、と声をかけるとようやっと気づいて頂けた。
湯賃をお支払いし右手の男湯へ。その際、ロッカーキーを一つ受け取る。今日は奥さんも一緒だが男性のみこういった形式のようだ。

脱衣場はビル銭湯だけに天井低め。
外壁側になぜかベッド。それと家庭用の平型体重計がある。ベッドは高さが少しあるのでマッサージを施す為にあるのかもしれない。

パパッと服を脱ぎ浴室へ。
こちらはやや少し天井が高い。1.3階分といったところか。防水の天井材は新しくピカピカと輝いている。その他床のタイルや壁等、全体的にきれいで心地よい。設置されている鏡は横に長く、島カランの鏡は長さが2m以上もある。もし割れてしまった場合は費用が高くついてしまうだろうが開放感があり、天井が低くてもそれを補って余りある演出になっている。

島カランは一列で女湯側から5-4□4-5(□は島、-は通路)。
立ちシャワーは一基。
湯客はお一人。金曜の夜、10時にしては少し寂しいだろうか。しかしそのおかげでカランを難なく確保し、しっかりと洗う。

浴槽は奥の壁に浅く広い浴槽と深い浴槽の二つ。サウナ室は外壁の脱衣場寄りに設置されている。
まずは広い外壁側にある浴槽から。3穴ジェットが二基あり、勢いはやや強め。しかし背もたれ等なくただの垂直な浴槽壁面なので座り心地はいまいち。首を預ける縁も少ししかなく落ち着いて座っていられない。しかし広い浴槽なのでジェットがある場所でなく、それ以外の所で寝湯を楽しむ。湯温は42℃ほど。快適な湯である。湯に薪で湯を沸かしたのか香が感じられる。

続いて深風呂へ。
こちらも湯温は変わらない。ボコボコと泡が噴出している。こちらで極楽気分を味わいながら背景等を仰ぎ見る。しかしながらこちらには背景はなし。色味の違う赤レンガ風の奥の壁。所々靴底のようなレンガをはめ込み、象形的な模様としている。
女湯境の天井近くには半円の大きな台があり、その上にはガス灯をイメージしたとも言える照明が一つ。しかし灯りは点いていない。

奥の壁とその照明に限って言えば、渋谷の第二かねき湯を思い起こさせてくれる。
銭湯巡りを繰り返す事で、こういった記憶の中の連鎖が起こる回数も増えてくる。

立ちシャワーでクールダウンした後、サウナ室へ。こちらのサウナはさすがに大田区銭湯、無料である。90℃と温度計が示しているサウナ室は二段の座面があるが、タオルが敷かれている訳でないので熱く腰掛ける事ができない。扉の側で立ち、ひたすら高温と戦ってみるが、こうしていると他の利用者も入りづらいだろうからやめて出る事にする。

湯客は5人ほど。皆一人でいらっしゃっているようでそれぞれが最適な間隔を開けてカランを確保し、お互いに干渉しないように体を洗ったりしている。途中、釜場への扉から旦那さんと思しきお方と、そのお子さんかと思われる方が出て来て体を洗い、湯船にも入らずまた釜場へと戻っていった。居眠りをしていた女将さんの家族だろうか。

湯から上がりフロント前で奥さんを待つ。
フロントは黒斑メガネの若いお兄さんに変わっている。接客は若いのに明るく丁寧。これだけでこの銭湯の良さが全てわかってしまうものである。
奥さんが出て来て話を聞くと、10時からの一時間、湯客は自分のみだったとの事。また、女湯には体重計があり、籠が載せられていたそうだ。


女湯の体重計


女湯のロデオボーイ


誰もいない女湯

そしてロッカーの半分ほどには鍵を持ち帰らないで下さいと書かれているものの、既に鍵は持っていかれてしまっているらしい。もしくは鍵を外して裏で確保しているのかもしれないが、本当の所はどうかわからない。


女湯の鍵なしロッカー

大田区の富久湯、小さいながらも近くにあれば通いたくなる温かみのある銭湯だ。銭湯はただ体を洗い、湯船に浸かれればいいというものではない。女将さんしかり、息子さんしかり、湯を取り巻く人々の温かさも伝わって初めていい湯だったなと感じる事ができるのである。
そういった意味では最高の銭湯ではないだろうか。
奥さんの評価もかなり高いようである。

屋号は富久湯ながらもマンションの名前はグレイス多摩川。そのギャップを不思議に思いつつも家路へとつく。


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