天神の賑やかな街並みから細い裏路地に入ると、住宅と飲食店が半々といった感じの通りに出る。飲食店もおしゃれな雰囲気の店が多い。そしてブティックホテル(いわゆるラブホ)もあるので、デートにはうってつけのエリアだ。
本庄湯に到着し、正面からその表向きを眺めるとこの街を訪れる若者たちとの差異を感じる。
勝手口の扉のようなステンレス製の扉を潜るとその先にはさらに異世界。もちろんこちらが時代の本流にあったものだが、いつのまにか街が追い越してしまった、という事である。
番台には女将さん。昨年訪れた時と同じように文庫本を片手に読書にふけっておられていた。そして前田美波里のようなショートヘアをしている。接客はというと控えめながらも私に気づくとすぐに本から目を外し、いらっしゃいませと丁寧にお声をかけて頂ける。そこでほっとする。
湯賃は440円。これは福岡県の銭湯料金である。
下足スペースは幅1.8m*奥行きは50cmほど。下駄箱もある。脱衣場にはマッサージチェア(15分100円)、3人が腰掛けられるほどのソファ、外壁側には木製ロッカー、そして輪投げがある。
マッサージチェアの値段設定にやや驚く。木製ロッカーは番号がそれぞれに振られているが鍵を付け替えて番号が変わったせいなのか、なぜか番号の並びがちぐはぐになっている。1~8くらいまでは常連用のロッカーというか蓋が外されて物置になっている。
番台の背中側の壁には神棚も飾られている。
全てのアイテムが長い歴史の中でいろいろなストーリーを生み出して来たのだろうと思うとこの空間にさらに深みが増す。
ロッカーの一つを確保し、パパッと服を脱ぐ。
さて浴室へ。
こちらの空間もまた昨年の時と変わらないが、2度訪れる事で懐かしさという新しい感覚を味わう事ができる。
カランは女湯境壁側が3(いずれもシャワー付き)、外壁側に5。それぞれのカラン前に小さめの鏡。床の排水溝は深さが5cmくらいあるので、まるでローマの古代風呂といった様相。カランも上から下に押すタイプではなく、手前から奥に向かって押すタイプのレバー式で強い力を必要とせず湯を出せるため、扱いやすい。シャワーのある場所を確保したが、3つ並ぶシャワーのうち、中央部分のシャワーはレバーを動かしても湯は出ない。
さてじっくりと身体を洗う。桶は無地でケロリンより底が浅めのもの。
さて浴槽を巡ろう。
こちらの銭湯には浴槽は二つ。中央部分に小判型の大型浴槽。そして外壁側奥に畳1枚分くらいの浴槽。
まずは小判型から。
湯温はぬるめで40度ほど。中心部分の底から唯一の水流が吹き出している。
背景を眺めつつ、まったりと湯を楽しむ。
男湯側の背景はチップタイル画で大きさは縦90cm*横1.5mといった所。エンゼルフィッシュが4尾。手前に赤、青。奥に黒めの2匹。いったい何を意味しているのだろうか。やや後ろの2匹は悪そうな雰囲気がある。
女湯側のチップタイルも男湯側から見る事ができて、そちらは丹頂鶴2羽。男湯側に比べると平和的に見て取れる。
なかなか身体が温まらないのでゆっくりとする。
さて続いて奥の浴槽へ。
こちらにはライオンの噴水口が取り付けられており、十分な湯量が放水され続けている。ブシャーというその音は浴室全体に響き渡り、空間を形成する一つの重要な環境音となっている。
湯温はやはりぬるめだが0.5度くらいは高めのような気もする。
湯客は私の他に一人。静かに湯を楽しんでおられる。20代のようだ。
さてしっかりと温まった所で湯から上がる。
再び訪れる銭湯、久々ではあるが以前と変わっていないという事を感じると嬉しいものである。
仕事では同じ事を繰り返しているとなかなか給料も上がらないものだが、銭湯においては改善すればいいというものではない。2度目にそう感じるという事はひょっとしたらこちらの銭湯は完成形に達しているのかもしれない。
もちろん100人湯に浸かれば100人の価値観があるわけなので、ここがゴールではない事は確かである。
少なくとも私はまた訪れた時も今日のように変わっていないでほしいと切に願う。
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