2008年12月16日火曜日

57.清瀬市松山 清の湯

仕事が終わり今日は実家へ帰る用事がある。
その道すがら、実家近くの清瀬市にある清の湯にお邪魔することにした。

中学生くらいによく清瀬の商店街にあるゲームセンターに遊びに来ていたものだ。
しかし銭湯が商店街(ふれあいどーり)にあるというのは全く気づかなかった。

一本路地裏に入り、スナックがいくつか軒を連ねている辺りに清の湯はある。
立派な千鳥破風。
目の前にコインランドリーがあり、その正面の姿は拝めない上、夜も更けているのではっきりと識別できない。時間は夜8時。

入口の暖簾はかわいらしいオリジナルのもの。子供が喜びそうな暖簾である。













下足を預け、引戸から中へ。
番台形式。
親父さんが小さなテレビを見ながらお店を取り仕切っていらっしゃる。
湯賃をお渡しし、脱衣場を見渡す。
とても広い。
天井も高く、格天井が広がっている。
女湯境には柱時計も現役で時を刻んでいる。

島ロッカーが一つ。
外壁沿いにもロッカーがある。
籐籠が10ほど、積み上げられている。

庭もあり、所々ビニールテープで補強されたベンチが二つ。
こちらで庭を眺めながらのんびりできそうだ。

浴室はよく二段型になっているものをみるが、面白いことにこちらは脱衣場も二段型になっている。
端のロッカーのすぐ上の天井は低くなっている。

パパッと服を脱ぎ、浴室へ。
お客は3人。
ジェットの音も控えめで、会話もなく、厳かな雰囲気である。
ここには昭和の時が今も流れている。

島カランが二列。鏡もシャワーもない。
両端にはシャワーあり。
7-4-4-4-4-6の構成。
シャワーありのカランを確保し、さっそく体を洗い始めるものの、シャワーの湯温が火傷せんばかりに熱い。
よく見ればどのお客もシャワーを利用せず、桶からザブンと体に湯を掛けている。
シャワーは便利だがこう熱くては何も意味がない。
気持ちを切り替えてケロリン桶をフル活用する。

カランのレバーは♨の赤いマークが湯、川の字が水。とても分かりやすくそして扱いやすい。
古くなっているが新しいものよりもとても親しみやすく懐かしいカランである。

鏡はぼろぼろであり、特に外壁側の鏡はくすみきっておりよく映っているものが識別できないほどだ。

女湯境には立派なチップタイル画。
四つの橋が並んでいる。章仙などのタイル画に比べたら安いものだろうが、とても雰囲気に合っている。

さて湯に浸かるとしよう。
浅風呂、深風呂が並んでいる。
蛍光灯が浴槽の少し上にあり、浴槽が照らし出されている。
浴槽の水面、かすれた塗装、はげたタイルなど、それらが調和して美しい色を演出している。浴槽を蛍光灯で明るくすると、何となく熱帯魚店の水槽を見ているようである。

まずはぬるそうな浅風呂より。
湯温は40℃ほど。ジェットが二基、ボコボコと泡を噴出しているが、時折強くなったり、弱くなったり、とても曖昧で自然的な噴出を続けている。
湯温計があり、35℃を指している。どうやら故障しているようだ。

ぬるいが柔らかく心地よい湯。のんびり背景を眺める。
背景は(野尻湖)15.8.20とある。
優しいタッチが早川氏を思わせる。
湖なので特に印象的な造形はないが、松やヨット、民家が一件、押さえるポイントはしっかり押さえられており。富士と違い、控えめな印象だが見ていて飽きがこない。
それにしても描かれてから5年も経つのに、はげている部分がほとんどない。
何か特殊な保存方法でもあるのだろうか。

続いて深風呂へ。
入る前に番台にお座りになっていた親父さんが深風呂の湯温を手で確かめた後、釜場へ戻り、そしてまた湯温を確かめに来ていた。
ぬるくなっていると見て温度を上げているのだろうか。
確かに41℃はぬるいと感じた。
ちなみに浴槽は二つとも中でつながっている。

釜場への扉は木戸。
年季が入っている。その木戸が開いている時、ひんやりとした空気と共に、何か懐かしいおばあちゃんの家の香が浴室へ流れ込んで来た。昭和の香である。

さて、親父さんが釜場へ戻っていったのを見計らって深風呂へ。
あ、熱い。
47℃ほどであろうか。
こんなに急に熱くなるものであろうか。と思うほど、急激に熱くなっている。
これは久々にアツ湯である。
深風呂はジェットなどなく、静かな水面。
その物静かな優しさ溢れる滑らかな動きとは裏腹に、湯温は激しく高く肌に突き刺さる。

カランに戻り、作戦を練る。
このまま帰るのは面白くない。浅風呂でちびちび体を温めるのも男でない。
ここは水を何度かかぶり、準備を整え、深風呂へ突入するという計画を立てる。

水をかぶること10回。
しっかり臨戦態勢を整え浴槽へ。
うん、これなら行ける。

じっくり背景を眺める余裕もある。いい湯だ。
背景の下には背景広告社とあり、いくつかの広告が並ぶ。
よく見かける多摩クリスタルのものなど。
ここの背景は外壁側にL字になって描かれている。とても大きいものだ。

じっくり温まっている頃には浴室には自分一人。
女湯側にも気配が感じられず、自分一人の世界となっていた。
贅沢な昭和の時間を、ただ一人で浮遊していた。

湯から上がり、脱衣場へ。
番台はいつの間にかおばあさまへ交代されていた。
ベンチに腰掛け、置かれているアルバムを手に取る。
風景の写真が何枚も。
少し埃っぽいので入浴する前に読むのがいいだろう。

スタンプをいただくと、おばあさまはいろいろお話を聞かせてくれた。
84歳だそうでとてもお元気である。
旦那さんが28の時こちらを建てて、もう50年になるそうだ。
他にも千鳥破風であることや、表の彫刻は日光東照宮でも仕事をされた方のお弟子さんが手がけられていること、外の御所塀は京都の物と同じで見ものである、ハワイに二度行ったことなどなど、時間にして30分以上お話をした。

にこやかでとても楽しい。
いつまでもお話をお伺いしたいとこだが、足が冷たくなって来たのでおいとますることに。
彫刻や千鳥破風など、昼でないとよくわからないのでまたおいで下さいとご丁寧にお誘いいただいた。ぜひまたお邪魔させていただきたいと思う。

清瀬は何度も来たことがあるのに一度も清の湯の存在に気づかなかったというのは人生の楽しみを損していたように感じる。
その損していた部分を今日は随分取り返せたんじゃないのではないだろうか。
銭湯全体に漂う空気感がたまらない。
貴重な体験ができた12月の夜であった。
おばあさん、いつまでもお元気でいて下さい。


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