2008年10月31日金曜日

36.四谷 蓬莱湯

四谷の蓬莱湯へ。

11月が近づき、寒さが段々増してきている。

仕事が終わり、会社の外へ出て寒さに身を震わせると、つい湯の温かさが頭に思い浮かぶ。
そして今日もまた、新しい銭湯との出会いがある。

蓬莱湯の蓬莱とは、「古代中国で東の海上にある仙人が住むといわれている山。」(wikipediaより)とのことだ。

小学生のとき、クラスの女の子の実家でやっている中華料理屋の名前が蓬莱軒だった。
縁起のいい名前なんだろう。












立派な唐破風の出で立ち。
目の前には四谷保育園がある。
そして、入口の両端にコインランドリーがある。
男女で分かれている訳ではなさそうだが、ひょっとしたら自然と男は左、女は右のように利用者は分かれるのかもしれない。













牛乳石鹸の暖簾をくぐり、左手の男湯へ、

下足の木札はかなり少ない。何十人もお客が入っているとは思えないので、おそらくは持って帰られてしまったか、壊れてしまったんだろう。

音がガラガラと響き渡るがかなり滑りのよい引き戸を開け、番台へ湯賃をお支払いする。
番台の板はくぼみがあり、小銭が転がり落ちないようになっている。自然とそのくぼみへ小銭を納める。

番台のおじさんはなかなか楽しそうに仕事をしておられる。
テレビは女側にあり、それを見て機嫌がいいのかもしれないが、鼻歌を歌ったりなんかしている。

脱衣場の天井は高い。
格子で木目がつやつやと光輝いている。多少板が歪んでいるのが年季を感じさせる。
アナログ体重計があり、keihokuのもの。クラシックなローラーむき出しのマッサージ機もある。壁の目の高さには扇風機。
天井からは棒が伸び、天井扇風機が付いていた後があるが、今はその羽が取り外されてしまっている。

外壁側のロッカーが見物で木製で横広のものだ。かなり大きなロッカーで年代物のようだ。自分のような若輩者が利用できるような代物ではない気がする。
ここは大人しく二列ある島ロッカーを利用することにしよう。こちらはオーソドックスなロッカーだ。

下足の木札を床に落とし、すぐには拾い上げずにロッカーを開けたり荷物を置いたりなぞしていると、後から入ってこられた外国人の背の高いお方がそれを見つけ拾い上げようとしてくれた。
すかさず礼を言い自分で拾い上げる。
なんと優しいお方だ。

さて、パパッと服を脱ぎ浴室へ。

浴室の天井はさらに高い。
光源が手前の蛍光灯しかないということもあり、天井に近づくにつれその光が弱くなっていき、ぼんやり照らし出される天井がさらにその高さを感じさせる。

カランは8-6-6-8。
両端の奥側にはシャワーなし。
お客は5人ほどだ。
うち一名はさきほどの外国人のお方だ。

やたら椅子の数が少ない割に桶のストックは多い。桶は「蓬莱湯」と書かれた黄色のものでケロリン桶の大きさと同一か。

カランの一つを確保し、体を洗い始める。

全体的に年を経て設備は痛みを見せているが、まさにそれが魅力的である。
放置されたような不潔感はない。長年利用されてきた証を所々に見ることができる銭湯だ。

特に鏡の痛みが激しくそれに映る自分の姿は崩れて見える。
まぁ的確に反射されても仕方がないほど毎日付き合っている自分の姿なので、今さらじっくり観察したいとも思わない。

湯船は二槽で半円形。中央には釜場への木戸がある。
杉並の小杉湯も釜場への扉が木戸であったがなかなかここが木戸の銭湯には出会わない。

浴槽右側は深風呂。
こちらの浴槽には誰も入っていなかったのでまずは入ってみる。
湯温は42℃ほど。ジェットが二ヶ所から噴出しているが威力は弱い。

泡立ちが少ないせいもあり、湯垢が目立ってしまっている。
それを外国人のお客が手ですくって外に出してくれる。そして自らは浅風呂の方へ入浴した。湯垢を私の為に外に出してくれたのだろうか。素晴らしい。

さて背景を見てみよう。
背景は富士山。赤富士である。しかも逆さ富士まで描かれている。何の因果か逆さ富士が描かれている駒澤大学の弦巻湯は明日で廃湯だ。
20年6月20日と記されている。なかなか新しい。
茅葺きの民家が一軒、水車が回転しているのが見える。お決まりのヨットも何槽か水面に浮かんでいる。

女湯側はどこかの湖のようだが詳細は不明。
女湯とはつながった背景でなく独立して描かれている。

男湯のみ孤立して描かれたペンキ絵を眺めていると、まるでキャンバスに描かれた絵画を鑑賞しているかのようだ。飽きることなく長い間、その景色で様々な空想を抱くことができた。

先ほどの外国人教授風紳士は口をすっぽり湯の中に沈め、体の9割9分を湯の中に深々と沈めている。瞑想に耽るかのごとく、目を閉じ静かに湯と対峙しているようだ。

さて、カランの水で少しクールダウンした後、浅風呂の方へ。

浅風呂はやや広目でジェットは三ヶ所から出ている。しかしやはり弱い。当ててはみるがマッサージ効果は弱そうだ。強ければいいと言うものでもないが。

こちらの湯温も42℃ほどかな。どちらも熱くはない。
半円形なので中央部分は奥行きがあり、全身を伸ばしても足がつかないほど。

木曜の夜9時ほど。
とても静かである。女湯側には3名ほどが利用している雰囲気。
男湯側も静か。みなそれぞれ一日の疲れを湯に浸かりながら癒している。
全体の雰囲気といい、醸し出される雰囲気は大人の空間である。

湯から上がる。
どちらもぬる湯と感じたが湯から上がってもいつまでも芯まで暖まっていた。
何かこの銭湯の底力というか魔力のようなものを感じる。

脱衣場でビン入りブルガリアヨーグルト120円を購入。
クラシックなローラーむき出しマッサージ機の側にある三人掛けソファに座り、日経新聞を広げ東証平均株価が9000円を割り込んだニュースを読んだ。

相変わらず番台のおじさんは鼻歌を歌っている。
頭を下げ外へ出る。
元気にありがとうございますとお声をいただいた。
今日は何かいいことがあった日であるのだろうか。それともおじさんの平均的接客レベルとしての行動なのか。
とにかく気持ちよくお店を出ることができた。

そういえばさきほど入浴していた外国人のお客はまさに蓬莱か。東の山の上に住む仙人だったのかもしれない。またここへ来るときお会いできたらいいなと思いつつ、新宿通りへほくほくとした身を進めることにした。

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