2008年12月30日火曜日

63.世田谷区若林 鶴の湯

今日は2008年の仕事納めである。
今日はぜひ銭湯に行きたいと思うので、納会が終わるとクルマで銭湯へ。

世田谷区の松陰神社の近く、鶴の湯へ向かった。
近場のコインパーキングに駐車し、商店街を鶴の湯方面へ向かう。
鶴の湯という屋号には少なからず期待を膨らませてしまう。

鶴の湯と書かれた看板が破風造りのすぐ側で煌煌と輝いている。
しっかり営業しているようだ。

千鳥破風。
全体的に朽ちている様子。

暖簾には赤い字で「ゆ」と書かれている。

下足入れに靴を預ける。入口は自動ドア。素早く開く感度のいい自動ドアだ。

番台形式で、親父さんが座っていらっしゃる。湯賃をお渡しし、ロッカーへ。
島ロッカーが一つあり、その上にはとんかつ屋のマッチがたくさん。あとうちわと1010が置かれている。

壁際にもロッカーがあり、お手洗いへの扉には「しずかにしめること」と書かれている。
このお手洗いを利用したが、板張りの床に窓は端が割れておりすきま風が吹き込んでいる。

倒壊しないだろうか。少し心配になる。

天井は高く格天井。しかし白い天井であるので安い造りなのだろうか。
女湯境にテレビ、そして新しい時計がある。
時計の後ろに縦長の板が貼付けてある。
おそらく昔は柱時計が備え付けられていたのであろう。

体重計はYAMATOのデジタル。
デジタルとはいえ、液晶はレトロ調の色をして、全体的に渋い雰囲気。いつかデジタルもレトロであると言われる時代が来るのであろうか。

シャンプーなど、入浴グッズもいくつかケースに入り売られているものの、ドリンク類は置いていない模様。外にある自販機を利用する他なさそうだ。

あとは洗濯機が二基、旧型の乾燥機もある。

パパッと服を脱ぎ浴室へ。
とても広い浴室だ。天井高く、ん?天井に赤い大きなマル印。あれは日の丸だろうか。

不思議に思いつつもカランを観察。
島カランが二列あり、外壁から6-5-5-5-5-7。
外壁の6のシャワーはホース付きである。
外壁よりの島カランにはシャワーがなく、それに両端のカランの両端のシャワーヘッドは外されている。
おそらく、入浴するお客、脱衣場へ行くお客・入ってくるお客に対してシャワーが当たらないようにする為の配慮、だと思われるがひょっとしたらたまたまそれらが壊れただけなのかもしれない。

一つのカランを目指して歩き出す。
その途中でなにか突起物を踏んでしまう。
どうやらタイルが剥げて転がっているようだ。中には鋭利なものもあるので注意して歩く必要がある。
剥げ落ちている床タイルの場所は決まっているので、お客が座っている場所付近は剥げている床が見当たらないことから、常連さん達はそれを知って行動しているものと思われる。

体を洗いつつも女湯境のチップタイル画に目が止まる。
白鳥5羽に風車小屋が並んでいる。
洋風なデザイン。銭湯の「和」とのギャップが面白い。

体を洗い終わり、浴槽へ。
三槽あり、外壁側が「エッキス」湯、中央が浅風呂、女湯寄りに深風呂である。
エッキスが気になりつつも浅風呂へ。

「超音波気泡マッサージ器」と書かれ、その下に現代人の疲れを癒すための・・ようなことが書かれている。
ミクロバイブラにジェット二基が元気に噴出され、浴槽全体に湯が流れ踊っている。
赤外線ライトも設置されているようだが灯りは付いていない。
湯が柔らかく、とてもマイルド。心地よい。
湯温は42℃ほど。

次に深風呂へ。
湯温がやや高くなり43℃。しかし中央の浴槽とは中でつながっている。
この深風呂から見える位置にタイルの施工が葛西タイル工業であると書かれているのが見える。深風呂のタイル一つをとってみてもとても素晴らしい造り。
壁の部分のタイルは水色、そして下にいくにしたがって濃い水色となり、青となる。
それも単なる青でなく、いくつかのタイルの組み合わせで色を表現している。
まさにその表現するものは海のようである。

ここで背景を仰ぎ見ると、男湯側に富士山があり、女湯側は見える範囲では何が描かれているのかよくわからない。
手前には海があり、浴槽とまさにつながっているようである。
浴槽のタイルが一つ剥がれており、ヘリの部分に置かれていたがその水色のタイルも一色でなくぼかしの技法を使って作成されている。

体も充分温まり、一旦カランに戻り水をかぶってクールダウン。
立ちシャワーがないので何度か水をかぶる。

続いてエッキスの湯へ。
こちらはにごり湯である。透明度は7センチほど。
壁に能書きがあり、昭和なイラストと共に効能が書かれている。
天然の鉱石から作られている入浴剤のようだ。カリウムやナトリウム、カルシウムなど様々な鉱物の栄養分が記されている。
気持ちのよい湯である。湯温はややぬるめで42℃ほど。
さらさらと体に馴染み、芯まで作用しているようである。隣の浴槽とのへりにかき混ぜ板が置かれており、年季を感じるものであった。

さて湯から上がり、脱衣場で着替えているとお客はもう誰もいないようで、親父さんが女湯境の扉を開けっ放しで行ったり来たり、閉店準備を進めている。
テレビでは自動車による事故を放送中。親父さんは「車に乗るならしっかりやれっていうんだ」と私に聞こえるようにお話しになられている。

隙を見てスタンプを頂こうとすると、「仕事が増えるから初めにいっぺんに出してくれ」とのこと。入店時に出せということらしい。

確かにそうかもしれない。
初めはそうしていたのだが、一見さんと思われることに不満があり、最近は帰り際に頂くことにしていた。そのおかげで湯の感想など、お話をするチャンスにも恵まれるようになったのだがこちらの親父さんにはそうもいかなかったらしい。

少し考えて今後どうするか決定しようかと思った。
その後、親父さんは売上金をしっかり向きを揃えて管理しているとお話し。
今までお金を貸しても名前を聞いたりしない、それでも皆しっかり返してくれるともお話しになられた。
売上金を千円札で何百枚もお見せいただいた時は少々面食らったものの、親父さんはとても曲がったことが大嫌いなちゃきちゃきの江戸っ子であった。


大きな地図で見る

62.新宿区市谷柳町 柳湯

柳湯へ。
25時まで営業のようだ。着いた時間は24時頃。1時間もあればじっくり湯を楽しめるだろう。

柳湯はマンションの一階にある。
張り紙がしてあり、「1DK空き部屋あり」と書かれている。
一階が銭湯のマンションだなんてぜひ住んでみたいものだ。銭湯の利用料が無料になったりなんかしたらかなりのメリットだと思うがどうだろう。

柳湯の入口にはライト付きの看板があり、サウナ(無料)と書かれている。
ぬくぬくとね、と書かれた牛乳石鹸の暖簾をくぐり、まず右手の下足入れに靴を入れる。
そして左手のフロントで湯賃を親父さんにお渡し。
男性のみ下足板を預け、ロッカーキーを頂く。
とても笑顔がお優しく、丁寧な接客をして下さった。気持ちがよい。

脱衣場へ行くと、中型の銭湯といった感じの大きさ。
マンション銭湯だけに天井は高くないが低すぎもない。
テレビがあり、音が脱衣場に広がっている。しかし女湯側にテレビはないようだ。

パパッと服を脱ぎ浴室へ。
お客は4〜5人。
島カランが二列あり、奥行きはそんなにない。幅もそんなに広くないものの、通路のスペースが狭くなっているので島カランが二列にできたようだ。
女湯境に6のカラン。うち2つはシャワーなし。4-4-3-4と続くので全部で21か。

パパッと体を洗い浴槽へ。
天井はマンション銭湯にしてはやや高い。M字型の天井で、外壁からフラット状態で2メートルほど天井が続いた後、ほんの少しの傾斜が中央に向かって付いている。
湯煙はものすごく、視界が悪いが雰囲気は良い。
フル回転している一基の換気扇だけではこの銭湯の湯煙を排出しきることは無理のようだ。

浴槽は大きく二つに分かれており、右手は寝ジェットと浅風呂。
左手には座ジェット一基とエステジェットが一基。
まずは座ジェットから。
水枕完備でしっかり冷たい。湯温は42℃ほど。奥行きの狭い浴槽なので足を伸ばすと端についてしまうものの気持ちのよい柔らかい湯。
注意書きに書いてあるが、薪で100メートルの地下水から組み上げられた水を湧かしているそうだ。しかも今日は薬湯で茶色の湯。おそらくジッコウの湯だろう。最高。

続いてエステジェットへ。
こちらは強力ジェットに深風呂の組み合わせ。しっかり手すりをつかんでいないと流されてしまう強力ジェットだ。

続いて浅湯へ。
こちらではのんびり温まりつつも背景を確認。
壁には一面に竹林。
これは既製品なのだろう。あまり雰囲気には感銘しないものの、なかなか癒される背景だ。

外壁側の浴槽は寝風呂。常に激しく泡が噴出しており、そこは全く見えない。横になると湯温が43℃ほど。この寝ジェットのすぐ横には「熱湯が出ることがあるのでご注意ください」と記載されている。
ゆっくり体の芯まで温まることができた。

続いてサウナに挑戦。
スチームサウナで温度は50℃ほど。
二人も入れば一杯となる狭いサウナであるものの、無料であれば問題なし。快適だ。
外に出ると水風呂があるので、何度か往復を楽しむ。
水風呂は水温17℃ほど。
井戸水のせいもあって少々色がついて濁っている。
濁りというか、沈殿物がとけ込んだ様子。

立ちシャワーが一基あり、ボデイシャワーもあるが、こちらはスイッチを押しても起動しないので壊れているのかもしれない。

さて、しっかり体も芯から温まり湯から上がる。
フロントは若い青年に変わっている。次の世代の親父さんであろうか。メガネで知的な感じであるが、丁寧な接客で将来に期待が持てる。
外に出ると看板のライトが消えた。本日の営業は終了のようだ。
この先何年も、何十年もマンションと共に、この街と共に生きながらえていってほしい銭湯である。


大きな地図で見る

61.渋谷区本町 天龍泉

金曜の夜、渋谷区の天龍泉へ。
駐車場が8台あると銭湯マップに書いてあるものの、到着してみると4台置けばもういっぱいという感じ。
8台置くにしても縦長の敷地なので、前に置かれたクルマを一旦外に出したりしないといけないだろう。
看板には奥から駐車して下さいとある。
鍵をフロントにお預けくださいともあるので、奥のクルマが出る場合は手前のクルマを移動させてくれたりするのだろう。
クルマは二台駐車されている。

入口は広く、スーパー銭湯の趣。屋号がネオンサインとなって光り輝いている。
今日は露天風呂が女湯で、打たせ湯は男湯とのこと。
下足を預け、中に入ると右手にフロント。
休憩所が広がっている。
そして50インチはあろうかという液晶テレビ。
目の前にソファが設置されているが距離が近すぎて圧迫感がありそうだ。

フロントには若いお姉さん。娘さんであろうか。
入浴券を券売機で購入。奥さんも一緒に来ているので二枚買ってお姉さんにお渡しする。接客は明るく反応も早い。フロント業務をされて長いのだろう。

右手が男湯だ。
脱衣場は銭湯というよりもジムのお風呂場といった感じ。
デジタル体重計があり、洗濯機が二台。
トイレは和式だった。
パパッと服を脱ぎ浴室へ。

これまた銭湯という雰囲気ではない。
壁のタイルや浴槽の手すりなど、風呂というよりもプールである。
カランは外壁に沿ってあり、島カランは二つであるが、カラン3-3の島カランが二つ。本当に「島」といった感じだ。
数えると23あった。立ちシャワーは二基。

体をしっかり洗い、浴槽へ。
大きく分けて二つ浴槽があり、左手はいろいろな種類の浴槽がある。
まず座ジェットへ。
二基あり、水枕も完備。しっかり冷たい水枕だ。座ジェットとはいえ二つそれぞれに差があり、噴出口の位置が異なっている。
それにしてもあまりに狭い幅の座ジェットである。やや太めの方でさえ腰掛ける際にお尻が左右の壁に突っかかるだろう。

湯温は41℃。ぬるめである。
じっくりつかってもなかなか体は温まらない。
続いてエステバスへ。
こちらは深風呂になっていて、猛烈に激しいジェットが噴出しているのを体に当ててシェイプアップするというもの。
かなり激しいので手すりにつかまっていなければ吹き飛ばされてしまう。体も浮いてしまう。
気持ちいいけどやはり銭湯って感じじゃないなぁ。

もうひとつ、浮き風呂があり注意書きによると寝た状態でスイッチを押すと床から泡が出てからだが浮いてしまうらしい。
しかしそこまで強烈な泡ではないので、エステバスでは体が浮いたものの、こちらは体が揺れる程度。つまりバイブラだ。

もう一つの浴槽は深い部分と浅い部分のある広めの浴槽で、湯温がやや高く42℃ほど。しかし塩素の匂いがなぜか強く、銭湯の趣からはより遠くかけ離れてしまった。

立ちシャワーで火照った体をクールダウンし、打たせ湯の扉を開ける。
二階上ほどまで吹き抜けで、二メートルほどの高さから湯がどぼどぼ流れ落ちて来ている。
下に小さな浴槽があり、腰掛けられるようになっている。完全に一人用の浴槽だ。型を当てしばし湯に打たれる。
確かに心地いいが、目の前の扉から次に入って来たら気まずいなと思いながら打たれる。窓ガラスは霞んでいて視界はほとんど得られないので、誰かが入って来てしまう可能性はある。
肝心の打たせ湯の方は、まぁ気持ちいいがこんなもんかというところ。

浴槽に戻り、すぐ左にロイヤルなんとかというサウナ室への扉があるが、サウナ料金はお支払いしていないので行くことはできず。
サウナがかなり重要度を占めている銭湯であるような気がする。
そう感じるのは全体的に湯温がぬるいこと。
それにこの浴槽だけでは面白みに欠けるということである。

次はぜひサウナ料金を支払ってサウナを利用しようと心に誓った。
休憩所で大型液晶でしばしテレビを鑑賞。首が痛くなり目が疲れた。
次はどんな銭湯に出会うことができるだろう。
どの銭湯も潰れずに今少し、僕が行くのを待っていて欲しいと思う。


大きな地図で見る

2008年12月23日火曜日

60.世田谷区世田谷 天狗湯

12月23日、明日はクリスマスイブである。
しかし銭湯にクリスマスは関係ない。
寒い日はただ温かい湯に浸かりたくなる。
いつか一生付き合いたくなる銭湯に出会うことができるだろうか。

今日は世田谷駅近くの天狗湯へ。
国道246号の駒沢辺りを世田谷駅方面へ進むと10分ほどで付近に到着。
クルマなのでコインパーキングへ。
30分200円。やや高め。

入口にはベンチ。
やや離れたところ右手にコインランドリーがあるが同じ人が経営しているのだろうか。
コインランドリーと銭湯は本当に切っても切れない深い縁がある。
だいたいどの銭湯に行っても当たり前のように鎮座している。
神社の狛犬のようだ。




暖簾は牛乳石鹸。
「そとはさむいネ ぬくぬくあったまろ ぬくぬくネ」
季節に合った癒される文章である。

下足入れが左右に配置され、中央には鏡。
扉のような枠なので番台への入口かなと思いきや、扉ではない。

靴を入れ、引戸から中へ。
左手が男湯だ。
番台にはメガネのお姉さん。文科系である。
最近文科系の番台さんによくお会いするような気がする。

脱衣場の天井は高いが白天井。
二段型の天井で外壁側の天井は低い。
ロッカーの鍵にはメーカーの名前がなく、一周させると鍵が開く。
閉めるときも一周。
ロッカーの扉の内側に「下駄箱の鍵などをお入れください」とビニールのポケットがついている。銭湯を利用していると下足入れの鍵をなくしたというお客によく出会う。それだけにこういうサービスも出てくるんだろう。

トイレをお借りしたが、扉の薄さに反比例してかなり重厚な開き方をする。
ずっしり重いのだ。
しかも鍵が閉まらない。
ガチャガチャやるのもあれなので、早めに用を済ませ出ることにする。
さて、パパッと服を脱ぎ浴室へ。

浴室は広め。
湯煙が濃いめで雰囲気は抜群だ。
7~8人のお客の入り。
島カランが二列で、6-6-6-6-6-5でなんと35もカランがある。
しかも全てステンレス製でキラキラ輝いている。
立ちシャワーが左右壁の脱衣場寄りに二基。
さらに外壁の浴槽寄りに立ちシャワーコーナーがあり、ここに三基の立ちシャワー。
カランだけを見ると大型銭湯と言えるけど、床スペースはそれほどでもない。

まずは体を洗おう。
島カランの上にはステンレスの棚があり、物を置ける。
混み合った時にはここに入浴グッズを移動させて、ゆっくり湯に浸かることができる。
サウナがあれば余計に便利な棚だろうけど、ここにはサウナ室はなし。

目につくのは注意書き。
なぜか雑貨屋のポップのように注意書きのメモがカランの上の棚に貼付けられている。
「シャワーの水を出しっぱなしにしないこと」
「軽石、シャンプーなどを使用しているときは水を止めること」など。
基本的に無駄に水を使うなという内容。
番台形式だと入浴中のお客のマナーにはよく気がつくのだろう。

体を洗う。
シャワーは使い初めに「シュパパパ」と音がする。
次第に普通の水圧になる。

浴槽ヘ行くとしよう。
こちらは浅風呂と深風呂の二つ。
浅い方には「ぬるめ」と書かれ、深い方には「あつめ」と書かれている。
ではまず浅い方から。
ぬるいのかと思いながら浸かると43℃ほどの湯温。決してぬるくはないような気がする。
ジェットは二基で、端の方はミクロバイブラ。
ミクロというほどではない泡だからバイブラ、かな。

天井を仰ぎ見て、とても高い二段型であることを確認する。
背景は白樺のタイル。
今日はスカイミントの湯だ。とても心地よい。
深風呂の方に「スカイミント」と書かれているが、下で浴槽はつながっているのでどちらも同じ湯の色。
となると「あつめ」とはいえ、そんなに熱さは変わらないだろう。
と思っていると、浴室へ10人ほどの高校生くらいの学生が入って来た。
皆太めの体つき。相撲部といったところだろうか。
次々とカランを埋めていき、直ちに自分のカランスペースのすぐ側にまで相撲部に占拠されてしまった。
彼らが浴槽にみんな浸かったら湯がなくなってしまうぞ。
そんな危機感を覚えつつ、深い方の浴槽へ。

やはりさほど湯温は変わらず。
相撲部の動きを眺めていると、カランのボタンをくるくる回したりしている。
確かにここの押しボタンはひねるカランのような溝付きの形をしているのだ。
しかし何度も回している。銭湯に来たことがないのだろうか。

しゃべっている言葉も東北の訛りが激しく、おそらく東京に試合かなんかで来ている感じだ。
すると相撲部連中が皆一斉に湯に浸かりに来た。
そそくさと湯から上がる。
相撲部連中が次から次へと入っても浴槽の湯は溢れたりはしていない。
うまく浴槽の湯量は調整されているんだろう。ほっとした。

さて脱衣場では残り一本のフルーツ牛乳110円を頂く。
女湯境の壁の上にはテレビが設置されている。
ペンキ絵がないだけで、実用的な銭湯といった趣になってしまう気がした。
ただ湯に浸かりに来たんですよといった感じだ。
今日湯に浸かりに来た相撲部連中にぜひ立派な東京銭湯のペンキ絵を拝ませてやりたかった。
それだけで彼らの今後の人生に少なからず影響を与えたかもしれないのだ。

天狗湯という屋号に期待を膨らませていたが、現代にしっかりと息づく銭湯だった。
昭和の香りはかなり薄い。
今の時代は平成なのだ。無理もない。
コインパーキングまでの帰り道、たこ焼き屋が一件。
妙にそそられるものの、奥さんの待つ家への道を急ぐことにした。


大きな地図で見る

2008年12月21日日曜日

59.杉並区桃井 秀の湯

12月21日、今日は冬至である。
冬至と言えばゆず湯。
浴場組合のサイトをチェックしていると、杉並区の銭湯はスピードくじ付きとのこと。
では杉並へ向かおうか。

杉並区は銭湯のサイト(こちら>>>)があり、googleで「せんとう」と入力し検索すると一番上にくる。しっかりSEO対策されている模様。

肝心の内容もしっかりしており、営業日や写真、休業情報など頻繁に更新されている。公衆浴場への情熱が感じられるサイトだ。将来は杉並に住みたいなと考える。銭湯に関して言えば大田区も捨てがたいのだが。

羽田経済新聞の記事によると今日東京浴場組合の銭湯で使用されたゆずは25トン。
5キログラムの箱5000個というからものすごい数だ。

都内最多、大田区の銭湯70軒で「ゆず湯」−高知産2トン超使う(羽田経済新聞)

大田区は銭湯の数も多いが、大田区浴場組合の専用ホームページは今のところ存在しない。
大田区のサイトに少し銭湯のコーナーがあるだけ(こちら>>>)。
これだけではどうにも寂しいので、ちゃんとした情報ページを作っていただきたいものだ。
世田谷に住んでる分際でこういうことを言うのもなんだが。

ちなみに世田谷区の銭湯ページはリストも載っていて少し情報量も多いが(こちら>>>)、休業してしまっている南烏山の松の湯や、既に廃業している弦巻の弦巻湯がまだ掲載されているところを見ると頻繁に更新はされていない模様。
でも2008年6月に廃業した玉川の新寿湯は掲載されていないから一年に2回ほどは見直しているのだろう。

さて、今日は「秀の湯」へ。

青梅街道の環八近く。
角を曲がるとすぐに秀の湯はある。
駐車場は50メートルほど離れた位置にあり、12台駐車可能。
12台とはいえ軽自動車しか停められないスペースもあるので注意が必要だ。

隣にコインランドリー、中華料理屋があるがこちらは定休日だった。
小腹が空いたので何か食べようと少し歩き、青梅街道を渡り「一圓(いちえん)」というラーメン屋へ。
「上荻セット(890円)」を頂いたが、餃子が肉いっぱいでジューシーでおいしく、味噌味の上荻ラーメンもおいしかった。

お腹もふくれたところで銭湯へ。
建物の形は正面からは把握できない。非常に奥まったところにあるのだ。
下足入れに靴を入れ、中に入ると右手にフロント。
そして左手には休憩所だ。
マッサージ器が3つあり、イスもいくつか。子供が好きそうなおもちゃが端の方にうずたかく積み上げられている。

湯賃をお支払いし、くじを引く。
奥さんもいるので二回。
ポカリスウェットの小さいやつと、共通入浴券が二枚当たった。
女将さんは「大当たり〜」とおっしゃっていた。

クルマの鍵を預け、駐車位置をお伝えする。
名前も聞かずに預けるのか。少々セキュリティー的に不安である。

右手が脱衣場。
脱衣場へ行く道には水槽があり、グッピー、コリドラスジュリーなどが芋洗い状態となって泳いでいる。とくにコリドラスは巨大である。7~8センチほどの体調。これは大きい。

脱衣場は天井高く、白い天井。
お客が10人ほどいらっしゃる。
浴室を覗いてみてもお客はかなり多い。
冬至のせいか繁盛しているようだ。でも、普段ガラガラの銭湯にいきなりこれだけのお客が集まるとも思えない。普段から人気のある活気ある銭湯なんだろう。

脱衣場にはテレビもあり、4人ほど腰掛けられるソファもあり。
サッカーのクラブW杯チャンピオンシップの3位決定戦をやっている。

パパッと服を脱ぎ、浴室へ。
それにしてもお客が多い。空きカランを探すのに苦労する。
島カランが一列で、女湯境にずらっとカランが11並び、島カランは6-6なので全部で23。
いや、こちらの銭湯には露天風呂ガあるのだがそちらにあと3つカランがあるので全部で26だ。
しかし露天のシャワーは一基故障中。

立ちシャワーは二基ある。
サウナは脱衣場側にせり出す形で設置してあり、バスタオルがサウナ利用証代わりになっている。

しっかり体を洗い、浴槽へ。
外壁側が浴槽に使われているのでL字型に配置されている。
ちょうど同じ杉並区の小杉湯の浴槽配置に似ている。

サウナ室よりに水風呂、隣に電気風呂、ミクロンバイブラがあり、座ジェットは三基、そして薬湯の深風呂槽。きょうはもちろんゆず風呂である。

そして通常釜場へ行く扉がある位置に露天への引戸がある。
なのでこちらの銭湯には背景がない。

まずは空いていたミクロンバイブラへ。
長いことミクロバイブラかと思っていたがここはミクロン。
内容に違いはないか。

湯温はぬるめで41℃ほど。
バイブラの上にあぐらをかいてもバランスを崩してしまうほどの威力ではない。
でも充分心地よい。

続いて空いていた電気風呂へ。
電気パワーはなかなか強力。
奥の壁に背中を付けることができないので手前でビリビリ。

続いて座ジェットへ。ここまでが同じ浴槽。
深風呂になっており、水枕も完備でしっかり冷えている。
ジェットの威力はかなり弱め。
背景もないので温まりながら天井を仰ぎ見る。
二段型で高い天井。水色のペンキがきれいに塗られており、改装されて長い時間は経っていないのだなと思う。

次はゆず風呂へ。
こちらの湯温はやや高めで43℃ほど。
ぐちゃぐちゃに潰されたゆずがネットにたっぷり入っていて、種や身が全部出ている。
初めから潰した形でネットに入れたんだろう。

香もよくストレスが和らぐ。
休日なのでそんなにストレスもないのだがとにかく癒される。
お客の数にしてはかなり居心地のよい銭湯だ。

ぬる湯では温まりにくかったが、ゆずのおかげで少し温まった。
立ちシャワーでクールダウンし、露天風呂へ。
引戸の先にはカランが3つ。
岩風呂となっていて、鉢植が岩の上に何個か置かれている。
湯温は驚くほどぬるい。38℃ほどか。
浅い風呂で3人ほど入れる大きさ。
ベンチがあるので内風呂で温まった体を冷ますのもいい。

空を見上げると屋根の隙間から星空が見える。冬は比較的星がよく見える。
釜場への扉が露天の先にある。
浴室と釜場の間に露天風呂をこしらえた形だ。

湯から上がる。
お客も多いが、居心地もよく、よく考えられた設計といえる。
地元にあれば重宝する銭湯だ。

フロントは若めの女性に変わっていたが、愛想がない。しかも景品のポカリスウェットを飲みながら業務についている。
クルマの鍵を受け取り外に出るがひと言もありがとうの言葉はなく、少々虚しさと切なさを覚える。
こんなときは高輪浴場を思い出してストイックな気分に逆戻りすることにしよう。

明日は千代田区のいくつかの銭湯でゆず湯がある。
せっかく高知から25トンのゆずが運ばれて来たのだ。
一日ではもったいないので明日もぜひ楽しむことにしたい。


大きな地図で見る

2008年12月20日土曜日

58.世田谷区上馬 明の海

金曜日、前から存在には気づいていたが行く機会がなかった銭湯に行ってみる。

駒澤大学駅近く、明の海である。
自宅から自転車で15分ほど。
時間は夜、10時。忘年会の季節、クリスマスも近いせいか街は活気付いている。

明の海は246号を環七沿いに数メートル進んだところにあるマンション銭湯。






















目の前はバス停で「上馬」。
銭湯の右手にコインランドリーがあり、入り口はシャッターが下りるようになっている。少しシャッターが下りた状態になっていて、頭上注意と内側に書かれている。故障してしまったのだろうか。

下足入れに靴を入れる。
なぜか全て赤色の数字。ひょっとしたら黒色の下足入れは改装する際に廃棄してしまったのかもしれない。
だとするとマンション銭湯になる前は伝統的銭湯の趣だったのか・・。
そう憶測を楽しみつつ、中へ。

フロントがあり、3人ほど腰掛けることのできるソファがある。
フロントには稗田神社の石。触るとご利益があるようだ。しかし、照れくさくて触ることができないよな。

フロントにお座りになられているのはお若い感じの女将さん。メガネをかけていて生徒会室にいそうな文科系の雰囲気。
湯賃をお渡しし、脱衣場へ。
暖簾をくぐるがいきなり狭い。50センチ位しかない奥行きを左手に折れ、脱衣場へ。

脱衣場はマンション銭湯だけに天井が低い。それでもロッカーはところ狭しと40以上ある。
一番下に常連ロッカーが並んでいるが10程あるそれは全て契約されているようだ。

ロッカーの上になぜか金色の蛙。
これまたご利益がありそうだ。

レトロな体重計はHOKUTOWのもの。昔から愛用されてきているようだ。

さて、パパっと服を脱ぎ中へ。

かなりコンパクトな浴室。
薬湯のいい香りが漂ってくる。湯に浸かるのが楽しみだ。

カランは5-5-5-6。島カランは一列。
島カランへの水道管が宙を通ってきている。普通は床を通すのだろうけどなんか不思議な感じだ。
しかもその水道管は島カランを通って端まで行き、立ちシャワーの方へ伸びていってる。
立ちシャワーは一基。

金曜の夜だけあってかお客が多い。10人ほど。
客層は若いが、中には60代とお見受けする親父さんもいらっしゃる。
女湯のほうから女子大生が何人もいるのだろうか、楽しそうな笑い声・話し声が聞こえてくる。

島カランのうちひとつを確保。
よく見ると島カランの脱衣場側の端の一つは鏡がない。ここに座ると少し切ないだろうな。

体をしっかり洗い浴槽へ。
浅風呂、深風呂の二つ。
どちらも薬湯となっており、酵素風呂と書かれている。
紫の色をしている。

まずは浅い方から。
湯温は43℃ほど。赤外線ライトが二基、そしてジェットが二基。
しかし赤外線は微妙な位置についている。
赤外線を利用するとジェットを利用している人に干渉してしまうような位置にあるのだ。
まぁ赤外線に体を押し当てている人もなかなか見ないのだが。

ジェットは二穴のもので、力は弱いかなと思いながら体を当てると、意外に勢いは結構あって腰の位置にガンガン当たって心地よい。

さて次は深い方へ。
こちらはバイブラが激しく、湯の色もあってそこがまったく見えず浸かるときは要注意。
そしてなぜか電気風呂。
幅が広いので中央に腰掛けてもあまりぴりぴり来ない。
初心者向けのパワーかな。
背景をどんなものかと眺めてみるが、タイルでモダンな感じの変な模様。

しっかり温まり湯から上がる。
フロントは若い感じのお兄さんに代わっている。
先ほどの女性の旦那さんかな。
ドリンクケースにはヤクルトが山ほど。ヤクルト好きがこの界隈には多いのだろうか。

さて寒空の中、自転車で自宅まで。
冬であるがしっかり家まで体は冷えずに到着。
これで自転車で行ける範囲の銭湯は行きつくした。
この地域で今のところ一番のお気に入りは・・上馬の栄湯だろうか。
また近いうちに温まりに行こうかと思う。


大きな地図で見る

2008年12月16日火曜日

57.清瀬市松山 清の湯

仕事が終わり今日は実家へ帰る用事がある。
その道すがら、実家近くの清瀬市にある清の湯にお邪魔することにした。

中学生くらいによく清瀬の商店街にあるゲームセンターに遊びに来ていたものだ。
しかし銭湯が商店街(ふれあいどーり)にあるというのは全く気づかなかった。

一本路地裏に入り、スナックがいくつか軒を連ねている辺りに清の湯はある。
立派な千鳥破風。
目の前にコインランドリーがあり、その正面の姿は拝めない上、夜も更けているのではっきりと識別できない。時間は夜8時。

入口の暖簾はかわいらしいオリジナルのもの。子供が喜びそうな暖簾である。













下足を預け、引戸から中へ。
番台形式。
親父さんが小さなテレビを見ながらお店を取り仕切っていらっしゃる。
湯賃をお渡しし、脱衣場を見渡す。
とても広い。
天井も高く、格天井が広がっている。
女湯境には柱時計も現役で時を刻んでいる。

島ロッカーが一つ。
外壁沿いにもロッカーがある。
籐籠が10ほど、積み上げられている。

庭もあり、所々ビニールテープで補強されたベンチが二つ。
こちらで庭を眺めながらのんびりできそうだ。

浴室はよく二段型になっているものをみるが、面白いことにこちらは脱衣場も二段型になっている。
端のロッカーのすぐ上の天井は低くなっている。

パパッと服を脱ぎ、浴室へ。
お客は3人。
ジェットの音も控えめで、会話もなく、厳かな雰囲気である。
ここには昭和の時が今も流れている。

島カランが二列。鏡もシャワーもない。
両端にはシャワーあり。
7-4-4-4-4-6の構成。
シャワーありのカランを確保し、さっそく体を洗い始めるものの、シャワーの湯温が火傷せんばかりに熱い。
よく見ればどのお客もシャワーを利用せず、桶からザブンと体に湯を掛けている。
シャワーは便利だがこう熱くては何も意味がない。
気持ちを切り替えてケロリン桶をフル活用する。

カランのレバーは♨の赤いマークが湯、川の字が水。とても分かりやすくそして扱いやすい。
古くなっているが新しいものよりもとても親しみやすく懐かしいカランである。

鏡はぼろぼろであり、特に外壁側の鏡はくすみきっておりよく映っているものが識別できないほどだ。

女湯境には立派なチップタイル画。
四つの橋が並んでいる。章仙などのタイル画に比べたら安いものだろうが、とても雰囲気に合っている。

さて湯に浸かるとしよう。
浅風呂、深風呂が並んでいる。
蛍光灯が浴槽の少し上にあり、浴槽が照らし出されている。
浴槽の水面、かすれた塗装、はげたタイルなど、それらが調和して美しい色を演出している。浴槽を蛍光灯で明るくすると、何となく熱帯魚店の水槽を見ているようである。

まずはぬるそうな浅風呂より。
湯温は40℃ほど。ジェットが二基、ボコボコと泡を噴出しているが、時折強くなったり、弱くなったり、とても曖昧で自然的な噴出を続けている。
湯温計があり、35℃を指している。どうやら故障しているようだ。

ぬるいが柔らかく心地よい湯。のんびり背景を眺める。
背景は(野尻湖)15.8.20とある。
優しいタッチが早川氏を思わせる。
湖なので特に印象的な造形はないが、松やヨット、民家が一件、押さえるポイントはしっかり押さえられており。富士と違い、控えめな印象だが見ていて飽きがこない。
それにしても描かれてから5年も経つのに、はげている部分がほとんどない。
何か特殊な保存方法でもあるのだろうか。

続いて深風呂へ。
入る前に番台にお座りになっていた親父さんが深風呂の湯温を手で確かめた後、釜場へ戻り、そしてまた湯温を確かめに来ていた。
ぬるくなっていると見て温度を上げているのだろうか。
確かに41℃はぬるいと感じた。
ちなみに浴槽は二つとも中でつながっている。

釜場への扉は木戸。
年季が入っている。その木戸が開いている時、ひんやりとした空気と共に、何か懐かしいおばあちゃんの家の香が浴室へ流れ込んで来た。昭和の香である。

さて、親父さんが釜場へ戻っていったのを見計らって深風呂へ。
あ、熱い。
47℃ほどであろうか。
こんなに急に熱くなるものであろうか。と思うほど、急激に熱くなっている。
これは久々にアツ湯である。
深風呂はジェットなどなく、静かな水面。
その物静かな優しさ溢れる滑らかな動きとは裏腹に、湯温は激しく高く肌に突き刺さる。

カランに戻り、作戦を練る。
このまま帰るのは面白くない。浅風呂でちびちび体を温めるのも男でない。
ここは水を何度かかぶり、準備を整え、深風呂へ突入するという計画を立てる。

水をかぶること10回。
しっかり臨戦態勢を整え浴槽へ。
うん、これなら行ける。

じっくり背景を眺める余裕もある。いい湯だ。
背景の下には背景広告社とあり、いくつかの広告が並ぶ。
よく見かける多摩クリスタルのものなど。
ここの背景は外壁側にL字になって描かれている。とても大きいものだ。

じっくり温まっている頃には浴室には自分一人。
女湯側にも気配が感じられず、自分一人の世界となっていた。
贅沢な昭和の時間を、ただ一人で浮遊していた。

湯から上がり、脱衣場へ。
番台はいつの間にかおばあさまへ交代されていた。
ベンチに腰掛け、置かれているアルバムを手に取る。
風景の写真が何枚も。
少し埃っぽいので入浴する前に読むのがいいだろう。

スタンプをいただくと、おばあさまはいろいろお話を聞かせてくれた。
84歳だそうでとてもお元気である。
旦那さんが28の時こちらを建てて、もう50年になるそうだ。
他にも千鳥破風であることや、表の彫刻は日光東照宮でも仕事をされた方のお弟子さんが手がけられていること、外の御所塀は京都の物と同じで見ものである、ハワイに二度行ったことなどなど、時間にして30分以上お話をした。

にこやかでとても楽しい。
いつまでもお話をお伺いしたいとこだが、足が冷たくなって来たのでおいとますることに。
彫刻や千鳥破風など、昼でないとよくわからないのでまたおいで下さいとご丁寧にお誘いいただいた。ぜひまたお邪魔させていただきたいと思う。

清瀬は何度も来たことがあるのに一度も清の湯の存在に気づかなかったというのは人生の楽しみを損していたように感じる。
その損していた部分を今日は随分取り返せたんじゃないのではないだろうか。
銭湯全体に漂う空気感がたまらない。
貴重な体験ができた12月の夜であった。
おばあさん、いつまでもお元気でいて下さい。


大きな地図で見る

2008年12月14日日曜日

56.世田谷区南烏山 第二千歳湯

日曜日。
クルマで銭湯へ向かう。
昼まで寝た上に一日ごろごろしているので疲れはないが、愛犬の散歩で少し体が冷えた。
しっかり温まろうと思う。

カーナビに第二千歳湯の住所を入力。
大体電話番号で検索するが、第二千歳湯は電話番号の登録がないのか検索してもヒットしなかった。住所は世田谷区南烏山3-11-26。
11-26・・・。「いいふろ」か。
電話番号の末尾が1126になっているのは見かけたことがあるが住所は初めて見た。

さて実際いい風呂ならいいが。

最寄りのコインパーキングに停め徒歩2分。路地裏にひっそりと第二千歳湯は佇んでいる。





















表は千鳥破風。左手に細い道路があり、そちらから浴室の窓が見える。おそらくこちら側が男湯だろう。

裏手には煙突と釜場。煙突は10メートルほどの高さでスパっと切られた竹のようになっている。短い。

薪を使っている訳ではないようだ。これでは煙たいと近所から苦情が来るだろうし、大体煙突の長さは23メートル以上と定められている。23メートルにしたところで昨今の高層マンションブームでは近所の苦情から逃れられそうもないが。

さて、正面から入り、下足入れに靴を預ける。
おしどりの下足入れ。かなり鄙びている。きれいではないもののとても味わいを感じる。














そして正面、番台裏のタイルは尾長鶏のもの。





















ポスターが貼られ全部は拝めないものの、傘入れなどが置かれて全く隠れてしまうよりはいいだろう。

左手の「殿方」と書かれた引戸から脱衣場へ。
親父さんは言葉少なではあるものの、はっきりと元気な接客。
常連客も何人かいるようだが、世間話はほどほどでとても気持ちがよい。

島ロッカーが斜めに置かれている。そして外壁側には木製の籐籠をそのまましまえる大型ロッカー。番号が大きくはっきりと描かれ、とてもレトロである。

四谷の蓬莱湯にもこの形の木製クラシカル大型ロッカーがあった。

これを利用したいが、一回目の利用ではおこがましい気がする。
今日のところは島ロッカーにしておこうか。

境壁の上に招き猫が薄汚れて鎮座している。
これまで何年もの間腰掛けてお客を招き続けて来たのだろう。思わず微笑んでしまう。
薄汚れたという表現が正しいかどうかは分からないが、全体的に白壁、天井、ロッカーとそんな色をしている。
長年かかって壁が徐々に色を鈍らせて来ているのだ。これはこれで時の重みを感じることができて心地が良い。

体重計はKEIHOKUのアナログ。
ローラーむき出しのマッサージチェアもどっかり腰を下ろしている。
サッシがあり、庭も見える。

壁には木曜日がラベンダー。日曜がじっこうの薬湯と書かれている。
今日は日曜日、じっこうの湯の日だ。少し得した気分である。

天井は高いが白塗り。格子状ではない。
品格は感じないが、古いながらも控えめな輝きを感じる。
何が何でも格天井がいいという訳ではない。安く仕上げたのかもしれないが、それでも立派な銭湯だ。悪くない。

パパッと服を脱ぎ、浴室へ。
正面には立派な背景の富士山。中島氏の作であろう。
広告が貼られる下部のスペースまでペンキ絵で塗られている。

さて、空きカランへ。
島カランが一列。
5-5-5-6。女湯境の6のうち一つはシャワーが抜けていてない。
女湯境の壁にはこれまた富士山。チップタイルで描かれている。
端から端までの長さ。右端には風車小屋もある。
どうやらタイル画のおかげかこの列に人気が集まっているようだ。

体を洗い、浴槽へ。
深風呂と浅風呂がある。
まずは浅風呂へ。やや茶色味がかったじっこうの湯。湯温は44℃ほどか。
バイブラがぼこぼこしており、ジェットは二基。
高めの設定だが湯が柔らかく熱さをあまり感じない。とても気持ちのよい湯だ。

立ちシャワーが一基ある。
こちらでクールダウンし、続いて深風呂へ。
全く泡の出ていない湯で、水面が穏やか。久々に静かな湯である。
よく見てもきれいな湯で、こちらのお客が皆しっかり体を洗い入っているのがよくわかる。
お客は8人ほど。
日曜日に6時くらい。多くもなく、少なくもないちょうどいい人数である気がする。

深風呂はやや熱い気もするが、どちらも中でつながっており、ほとんど湯温に変わりはない。
静かな水面に心も穏やかになるようである。
じっこうの香がまた、肌にも精神的にも癒される。

しっかり芯まで温まり、湯から上がる。
脱衣場ではビン牛乳130円をいただきながらベンチで一服。
この脱衣場は改めて昭和の香りをぷんぷん感じる。
古くさいが昭和を感じるくすみ方が素晴らしい。
しばしその空気の中に入り込んでしまう。

最寄りの松の湯は休業中。あちらもぜひ行ってみたいものだが。
日曜の夜、明日から始まる新しい一週間を迎える準備がしっかりできたように思う。
家から近いので是非また湯を楽しみに来たいと思う第二千歳湯であった。


大きな地図で見る

55.港区南麻布 麻布黒美水温泉竹の湯

今日は職場の忘年会。
夜は銭湯へ。

表参道にある清水湯へ行こうとしたのだが・・・
現地に着くとマンション建設中。所在地辺りを探るものの、やはり建設中のマンション辺りが清水湯のようだ。
ケータイで浴場組合のサイトをチェックしてみると、<休業中>の文字。
最初に調べておけばよかった。

気を取り直し、近場の銭湯へ行こうかと思うが時間はもう22時。
このままでは銭湯に入れなくなるかもしれない。
というわけで、タクシーを捕まえて銭湯マップで目に入った港区の竹の湯へ。

近いかと思ったが、10分ほどかかった。しかも深夜のため割増となり1400円かかった。銭湯に入るのにタクシーに乗って割増料金を払う。
そんな自分に笑えてくる。
まぁ、たまにはいいじゃないか。
隣にいる奥さんは呆れ顔。
忘年会の後で少々お酒が入っているせいもあるのか判断力が鈍っていたかもしれない。

それはさておき、竹の湯は韓国大使館の裏手にある。
銭湯マップには温泉マークが付いている。黒湯のようだ。楽しみである。

竹の湯は4階建マンションの一階にある。
入口は大きな看板が設置され、温泉の文字が燦然と輝いている。
































黄色いネオンがまぶしい。

下足入れに靴を入れる。自動ドアをくぐるとフロントが右手にある。
メガネの親父さんはテレビをご覧になっている。
既に23時になっており、念のため終了時間を確認すると23時半とのこと。
時間きっかりに終わるのかが気になるとこだが、時間になると湯を抜きますとおっしゃられた。特にゆっくり浸かっていて下さいとは言われなかったので、きっかりに終わってしまうようだ。

脱衣場へ。
天井はさほど高くはない。こじんまりとしているようだ。土曜の夜という事もあってか混み合っている。

パパッと服を脱ぎ浴室へ。
背景が迫力ある日本丸のランダムチップタイル。壁全面が日本丸だ。
黒湯の浴槽も見える。
まずは体を洗おう。
カランの空きを探すが、中も混み合っている。なかなか空きは見つからないが、やっと一つを確保。
カランの数は4-4-4-4-4の20。島カランは二つである。
立ちシャワーは二基あり、サウナ室もある。

天井はビル銭湯の高さ。低い。
面白いのはかまぼこ型でもへの字型でも、もちろん二段型でもなく、四角い中央が少しだけ高くなっている天井。
体を洗うと浴槽へ。

浴槽は二つ・・ではなく一つ。中央辺りで区切ってあるが、角材で分断してあり、その下には簡単なブリキ板みたいな仕切り。湯はどちらも同じもので黒湯。

どちらにもジェット湯がある。全部で3基。
湯温は43℃ほど。蛇口からも黒湯が出るようだ。
さすがに黒湯は心地よく、色も濃い。ややオイリーな感じの黒湯だ。サラサラ度はその分低くなる。好みは別れるかもしれない。

充分温まり湯から上がる。
フロントで奥さんの到着を待ち、さっそく女湯の状況を確認。
背景はなんと日本地図だったとのこと。
各都道府県に赤い点が点いており、東京は金色だそうだ。
銭湯の背景が日本地図とはかなり興味深い。
ぜひ一度見てみたいものだ。
→港区南麻布 麻布黒美水温泉竹の湯のHPに載っています。
こちら>>>


大きな地図で見る

54.品川区西品川 記念湯

クルマで品川の記念湯へ。
戸越銀座商店街の中にある。
ローソンの前に20台ほどのコインパーキングがあり、そこから歩いて2分ほど。入口はサウナと別れている。もちろん銭湯の入口へ。




















こちらはサウナ入口。

金曜の12時過ぎ。あと一時間で閉店だ。













こちらは建物正面。

靴を預け、入口から中へ。
フロントが左手にあり、親父さんが座っている。
湯賃をお渡しし、広いロビースペースを横目に左手の男湯へ。
今日は奥さんも一緒だがここでお別れ。

天井は高く、脱衣場・ロビーと一体型の天井だ。柱が一本立っており、それを中心に円形に天井が広がっている。格天井ではないが、昭和のモダンな様子が見て取れる。

パパッと服を脱ぎ、浴室へ。
ここは奥行きが広い。
天井はかまぼこ型で、低いのだけど奥行きの広さでとても広大な空間であると感じる。カランがずらっと並び、島カランは一列で立ちシャワーが三基。
浴槽もいろいろ充実している。

まずは体をしっかり洗い、とにかく一面に広がる浴槽へ。
背景はヨーロッパの湖に洋館が建っている。その向こうに山脈が広がっている。チップタイルで、浴槽ぎりぎりまであるので浴槽と湖がつながっているように見える。
広い浴槽には寝風呂が並び、3つのボタンが壁についている。
押すと強くはないがジェットが噴出される。
スイッチの付いていないところはただ横になるのみ。それでも十分に心地よい。

面白いことにボイラー室(釜場)への扉が湯の先にある。
つまり湯の上を歩かないとボイラー室には行けない仕組みになっている。横幅が狭いだけに仕方ない設計だったのだろう。
湯温は41℃ほど。ぬる湯である。
しかしすぐ側に高温浴槽があり、デジタル表示では44.4℃となっている。
確かにアツ目の湯で、さらに湯は沸いており、温度は上がって行く。
ボタンがあり、「押して調節してください」の注意書きがある。
しかし、どう押してもデジタル表示など変わることなく、結局は諦めることにした。どういう仕組みになってるんだろうか。

さて、続いては森林浴の湯へ。
フィトンチッドの香を楽しめる浴槽がある。
思えば大岡山浴場にも同じ香りを楽しめる個室があった。久々である。
4人は入れる大きめの浴槽に森林の香りが漂っている。
金曜の夜、一週間働いて貯まったストレスもす〜っと洗い流されていくようである。

隣には露天がある。
こちらも大きめの浴槽。5人はゆったり入れるだろう。
天井部分がスライド式で空を拝める。月がちょうど良く見える位置にある。岩風呂となっており、外気が肌にひんやりと当たる。ぬる湯であるが、月を眺めつつ、じっくりと体を温めようという気になる。
少々塩素の匂いが気になるが、たまに吹く自然の風に匂いも飛んで行く。

露天から出ると水風呂がある。
2人も入れば窮屈に感じるほどの狭さであるが、17℃くらいという冷たい設定。病気の人は入らないでくださいの注意書きも見える。確かにこれは冷たい。サウナもないので高温浴槽との行き来を何度か楽しむ。

すっかり温まり、湯から上がる。
ロビーは広く、大型液晶テレビがありその前にイスがミニシアターの如く8席並んでいる。地デジを受信している。
フルーツ牛乳を飲みながら、後で上がって来た奥さんから事情聴取。
女湯側の背景は教会であり、鶴がいたという。また、露天はなかったとのことだ。
少し得をした気分である。

お客は皆若く、とても廃れつつあるイメージがある銭湯とは趣が少々異なる。戸越銀座という街自体に銭湯の需要がかなりあるようだ。
今度はぜひサウナを楽しみに来ようかと思う。きっとまた新しい発見に胸を躍らせることができるだろう。


大きな地図で見る

2008年12月11日木曜日

53.港区高輪 高輪浴場

仕事の帰り、クルマで高輪方面へ。

港区に仕事の用事があったため、高輪浴場へは4kmほどの距離。クルマを飛ばし、東京タワー付近を走り抜ける。

そういえば昔、泉岳寺の辺りで映像制作の仕事をしていたっけ。魚藍坂のピーコックやら高輪消防署やらを目の当たりにすると色々想い出が頭の中を駆け巡る。
魚藍坂上のピーコックの近くにあった、広場にベンチがあるだけという シンプルな公園が既になく、建物や駐車場に開発されてしまっているのをクルマの中から見て少しセンチメンタルになる。

高輪浴場は港区で最後の番台形式銭湯。これから新たに銭湯ができて、それが番台形式でない限り港区に番台銭湯はない。

大きなマンションがそびえ立ち、一階には「LINCOS(リンコス)」というスーパーマーケットが入っている。その目の前にコインパーキングがあるので駐車。そこから1分も歩くと高輪浴場だ。
高輪消防署は火の見やぐらにイルミネーションがついている。おしゃれな出で立ちである。高層マンションを見上げ、イルミネーションを見ながら高輪浴場のある路地へ入る。













そこには時が止まった空間が確かに存在した。

暖簾は出ていないが引っ掛ける場所もなく常に出ていないと思われる。

銭湯に暖簾がある必要がどこにあるのだ?
確かにそうかもしれない。

入口からして男湯と女湯は別れている。
けど傘入れの前は通り抜け可能だ。
イスもないので恋人同士で来た場合、神田川の歌詞のようになるだろう。

時間は22時くらい。
営業は22時30分までということでかなり終わりが早い。
右手が男湯。
中に入ると番台には小説を読みふける女将さん。
いらっしゃいの声もない。
湯賃(500円)を番台の木皿に入れる。
木皿は二つ並んでおり、私が硬貨を入れた木皿ではない方の木皿に50円硬貨が置かれた。

それからロッカーへ向かうところ声をかけられる。
「入浴セットはお持ちですか。ここは温泉じゃないんですよ」
どうやらスーツに手提げカバンというサラリーマンスタイルの当方が手ぶらで入浴に来たと勘違いされたようだ。

カバンを指差し持ってきているとお話し。
確かに客観的にみれば風呂に入りに来た格好には見えないかもしれない。無理もない。

脱衣場はコンパクトだが天井高く、格天井。木の色が良い。
アナログ体重計は亀井製作所と書かれたかなり重量感のあるクラシカルなもの。105kgが上限値。血圧計や身長計測器もある。

そこかしこに注意書きが貼られているのが気になる。
庭へのサッシに「あけるべからず」。その先に庭があるかどうか知る由もないが。
トイレの電気のスイッチの側に「トイレのスイッチは右の方を見よ」。番台へ問いかける前に注意書きを見よということか。
浴室側には「洗濯はしないように」
〜するなという内容のものがほとんどだ。

ロッカーの上には常連客のものとおぼしき入浴グッズがいくつか並んでいる。
ロッカーの上は埃が積もりがちなのだがここはきれいにしてある。常連を大切にしているスタンスが伝わってくる。そうなると私のような客は目障りに感じられるのかもしれない。

パパッと服を脱ぎ、浴室へ。
島カランが一つ。鏡もシャワーもない。
外壁側のカラン列にもシャワーなし。
女湯境側のみにある。
銭湯にシャワーが必ずしもすべてのカランに必要でしょうかと問いかけられているかのようだ。そう、確かにすべてのカランに必ずしもシャワーは必要ない。

6-5-5-5。6にシャワーが設置されている。シャワーの水量はちょろちょろで、結局は桶に湯を溜めてザバンとやるのが心地よい。
お客は一人いらっしゃったがすぐにお帰りになられた。
一人きりの湯である。

体を洗う。
鏡の下側には葬儀社の広告。
タイルに横向きの菱形模様が入り、とても味のある雰囲気だ。
体をしっかり洗い、浴槽へ。
深風呂、浅風呂が並んでいる。
浅い方へまず入る。湯温は43℃ほど。柔らかい湯の肌触り。
長寿泉とかすれた文字がかろうじて識別できるが、その文字の下に檻があり、例の如く湯が石に当たり、それが浴槽へ流れ込んでいる。

足を伸ばし、しばし心地よい湯に身を委ねる。
天井を見上げ、背景を・・・。
しかしここには残念ながら背景がない。
水色の壁は剥げ落ち、天井のペンキも剥げ落ち、まるで古代遺跡のように朽ちかけている。
かつてペンキ絵が塗られ、天井の艶やかな白い色を思い馳せる。お客が湯をかぶる音。桶が床を叩く音。湯を楽しむお客の話し声。どこからかそんな音が聞こえてくるかのようだ。
しかし今、この銭湯にはお客が一人もいない。

背景がなくとも、そこにペンキ絵は見えた。
なぜ描かなくなったかは分かりかねるものの、水色の壁にペンキ絵が銭湯に必ずしも必要ですかと問いかけられている気分だ。
そう、確かに必ずしも銭湯にペンキ絵は必要ない。そこに薪で沸かした心地の良い柔らかい湯があればそれで充分なのだ。

高輪浴場の注意書きは壁に直接マジックで書かれている。
かすれてよく読み取れないものの、水を埋めすぎるな、浴槽の湯を掛けるな、サウナではないので水ばかりかぶるな。といったやはり〜してくれるなという内容のものばかりだ。

お客が一人入ってくる。全身墨の入ったお方だ。

直接浴槽の湯をかぶり、浴槽のすぐ側で体を洗い始めた。注意書きはなんの効力もないようだ。

続いて深風呂へ。
湯温は浅風呂とつながっていることもあり、変わらず43℃ほど。

古代遺跡の湯を楽しんでいると、長寿泉の湯の流れが止まった。スイッチが切られたようだ。
時間はまだ22時30分前であるはずだが・・。少々気も焦ってしまう。

しんと静まり返った浴室に二人きり。

せっかくの湯なのでじっくり温まっていると、墨入りのお客は慌てて上がってしまった。
番台の女将さんと22時30分で終わりなのかと確認している。どうやら常連客ではないようだ。

また一人になりさらに古代遺跡の湯を楽しむ。

しかし、続いて脱衣場の電気が消されてしまった。
完全に追い出しに入っているようだ。

ここまでお客に気を使わない銭湯も珍しいだろう。
こちらの常識として「ゆっくり湯に浸かって行ってね」「終わりの時間が来ても入っていていいからね」「またいらっしゃいね」という反応を期待しているのだがそんなことは微塵もない。

そうだ、なぜそこまで銭湯側がお客に優しくある必要があるのか。
いや、全くそんな必要はないだろう。こちらの常識は勝手に作り上げてしまっている銭湯のイメージ。銭湯は長い歴史の中生き抜いて来た。そこまでしてお客に媚びる必要はないのだ。

さすがにこのままでは扉も閉められてしまいそうだ。
湯から上がり、水を何回かかぶるが注意書きが頭をよぎる。あまり水をかぶりすぎるのはよそうかと思う。

火照った体の温度は下がらず、脱衣場に行ってもなかなか汗が引かない。
急いで帰ろうとする気持ちとは裏腹にじわじわ汗が湧いて出てくる。

ふと番台を見ると誰もいない。
女将さんは閉店準備に行かれたのだろう。
しかし焦る必要もないのだろうが、何か落ち着かない。
最後にありがとうという声を待っている自分もいる。
しかし、お客に感謝の気持ちを伝える必要が本当にあるのだろうか。
女将さんはそんな必要はないと言っているのかもしれない。

ワイシャツに汗を滲ませながら、一人戸を開け路地へ出た。
もう一度全景を見ようと顔を上げると、煙突が窮屈そうにすぐ側のマンションより低い位置でやりづらそうに身をすぼめていた。

開発が進む中、この銭湯は〜するなと懸命に自己主張を続けている。
お客に媚びることなく自分をアピールし続けている。
近い将来、またこの自己主張の湯に浸かりに来たいと心に誓った。


大きな地図で見る

2008年12月7日日曜日

52.渋谷区西原 仙石湯

都心での用事を済ませ、家へと帰る途中に銭湯に寄ることにした。

幡ヶ谷にある仙石湯。
すぐお隣の笹塚に学生時代一人暮らしをしていたせいで、この幡ヶ谷の商店街にもなじみがあり、歩いていると懐かしい気分に浸れた。
歩いたのが7時過ぎということもあって、ほとんどの店は店じまいの時間であったけど、人々の活気や食事処から漂ってくるいい香りなど、当時の雰囲気が色濃く残っているなと感じた。

車で来たので幡ヶ谷駅前のコインパーキングへ駐車。一時間400円。
そのまま商店街に入り、3分ほど歩くと右手に仙石湯が見えてくる。左手にはスポーツセンター。運動をして疲れた体を銭湯で癒す、そんな使われ方が思い浮かばれる。

左右をコインランドリーに挟まれ、入口には仙石湯のオリジナル暖簾がひらひらと風になびいている。













立派なビル銭湯。
歴史を感じるしっかりとした造だ。なにか格調高いものを感じる入口である。





















下足を預け、ピカピカの床を進む。
このロビーにはイスが4つあり、待ち合わせが可能だ。外気が入ってくるのでこの季節はかなり寒かろうが。

中は番台形式で上品なしゃべり方の女将さんが微笑みながらお出迎えをしてくれた。
湯賃をお支払いする。番台の前には大きな壁があり、脱衣場のすべては見渡せないような造りになっている。
番台の目線が気になる人には親切な造と言えるだろう。
それにしても床がきれいだ。まばゆいばかりに光り輝いている。
天井はさすがに低い。控えめに二段型になっている。
アナログの体重計はTANAKA製だ。しかしこれは新品同様のもの。身長計測器があり、ドリンク自販機もある。
ソファが設置され、テーブルには数多くの雑誌。なぜか芸術系の雑誌が多い。
こちらのご趣味であろうか。

パパッと服を脱ぎ、浴室へ。
お客がなかなか多い。10人ほど。
天井は低く、かまぼこ型である。上部の丸い部分は非常にわずかな円弧を描いている。
横幅がゆったりとあるため、狭さは感じない。
湯煙が充満した浴室はこれから湯を楽しむ胸の高鳴りをさらに盛り上げてくれる。

カランは7-7-7-9。島カランが二つなのだが、外壁側はサウナ室と薬湯の浴槽があるためカランはない。立ちシャワー2基と、ボデイシャワーもある。こちらは「湯」と「水」のボタンがついている。

体をしっかりと洗い、浴槽へ。
座ジェットが3基あり、普通の浴槽が並んでいる。座風呂の方には水枕もしっかり完備。
まず普通の浴槽へ。
湯温は41℃とデジタルで表示されている。たしかにぬる湯でそれくらいの温度だ。
初めの湯としてはちょうどいい温度である。
少し体も温まり、続いて座風呂へ。
こちらは3基がしっかりと手すりで分けられており、浴槽に入る部分から手すりが続いている。水枕は適度に冷たく心地いい。足を伸ばしても、イスのように腰掛けてもしっかり収まる構造。座ると水枕の位置が低く感じ、寝るには少し高い感じがする。
自分の体が少々大きすぎるのかもしれない。

さて、次は薬湯の方へ。
本日は「カモミール」湯。
ハーブティでカモミールはよく飲むが、まさに同じ香り。
安らかな眠りを誘う香がする。
湯温は44℃の表示。高温槽と書かれており、ヘルシーバスとも書かれている。
薬湯にしては湯温が高めかなとも思うが、浸かってみるとそんなことはない。とても肌触りのいい薬湯で湯温はむしろぬるい位に感じる。
芯まで温まり、すぐお隣のボディシャワーへ。「水」のボタンを押し、ブースの中に入る。何十カ所もの穴からジェットが噴出。冷たく一気にクールダウンされる。少々ジェットが体に痛いくらいだ。
サウナ室がすぐ隣なので、水風呂がない分このシャワーでクールダウンするのが温冷入浴の常套手段となる。

カモミールの湯へ再び浸かり、何度かこの往復を繰り返す。
そんな折、背景を眺めてみるが、壁は茶色のタイルで何もなし。少々寂しいが、その代わりに脱衣場境のすりガラスに注目だ。
熱帯魚に水草、そして裸婦が一体。わかりやすいタッチで描かれている。
時折すりガラスのある銭湯に出くわすが、女性である確率はかなり高い。こちらのすりガラスも例に漏れず。なかなか楽しめるすりガラスだ。

注意すべきは浴室の床。
タイルが無地のものなので、注意して歩かないとつるっといってしまう。子供などは素早く動きがちなのでこういうタイルでは危険だろう。

湯から上がり、スタンプをもらう。番台がご主人にお変わりになられている。
「色々なところを廻ってるんですね」とお言葉を頂いた。
こちらの銭湯は静かで雰囲気があっていいですね、とお返しした。
実際テレビがなく、お客の数は多いがやかましいことがない。ゆったりと湯を楽しめるのだ。お客の年齢層が高いというのも雰囲気を良くしているだろう。
それと何よりも床のきれいなこと。これは素晴らしい。一瞬にしてこの銭湯の質の高さが伺い知れるというものだ。
ビル銭湯であるのになにか深いものを感じてしまう。背景がないのは物足りないが、それが逆に銭湯特有の浮世な雰囲気を消し去る効果もある。銭湯全体から懐の深さを感じてしまうのだ。

表に出て、パーキングまでの道すがら、体は薬湯のおかげでいつまでもあたたかかった。
次にくるときはサウナを楽しむことにしよう。
学生時代に一度来ていれば今日は再訪となったわけか。そのころは銭湯には全く興味がなかった。一歩青春を立ち止まり、仙石湯に浸かれば多少考え方も変わって来ていたかもしれない。
そう考えだしてもまったく今となってはどうしようもない思いを巡らせながら車を走らせ家路に着いた。


大きな地図で見る

51.北区十条仲原 十条湯

クルマで十条の銭湯へ。

狭い道を抜け、駐車場が見えた。十条湯専用駐車場と書いてあり、三台のスペースがある。
十条湯の裏手にあるようだ。

クルマを停めて、ぐるっと銭湯周りを一周してみる。
大きな煙突はなく、銀色の煙突が脇から5メートルの高さほどまで伸びている。












正面に回ると、十条湯の屋号が書かれた暖簾。左手には喫茶スペースが見える。フロントに座る親父さんも見えるが、どうやら喫茶店を兼ねているようだ。













さて、下足を預け、右手の広いコインランドリーを見ながら自動ドアを過ぎる。
フロントの親父さんは小声でいらっしゃいませ。
湯賃は二人分をお渡しした。今日は奥さんも一緒だ。
右手が男湯。
脱衣場に入ると、二階へ行く階段がある。サウナ利用者の専用休憩スペースがあるようだ。
一階にはテレビが三台。中央のテレビの音声が響いているが、他のテレビの音は出ていないし、あまり意味がないような。
天井はなかなか高く、昔は伝統的銭湯であったのではないかと思われる。

パパッと服を脱ぎ、浴室へ。
すると正面に背景。これはいきなり目に飛び込んでくる迫力。
鶴二匹が太陽に向かって突き進んでいるチップタイル画。ランダムチップだ。渋谷の武の湯や用賀の栄湯などがランダムチップであった。

カランは6-7-7-3。立ちシャワーが3つ。
広くもないが、通常の銭湯面積に浴槽の種類が3つ、サウナもあるのでかなり有効にスペースを使っているといえる。

体を洗い流し、浴槽へ。
まずは外壁よりのミクロバイブラから。湯温はかなりぬるめで40℃を下回っている。ここはじっくり長風呂を楽しむと見える。
お客は3人ほど。土曜の7時ほどだが、少し少なめだろうか。もう少し遅くなると混んでくるのかもしれない。

続いて隣の浴槽。
こちらは力なくバイブラが出ているが、湯温が43℃ほどなのでとても心地よい。じっくり浸かると体が芯まで温まり、水風呂に行きたくなる。
水風呂は女湯境の壁下に設置してある。湯温は22℃ほど。
3人ほどは入れる大きめの浴槽。サウナもある訳だし水風呂は欠かせないだろう。

続いて残りの浴槽は座ジェット(座風呂)。三基あって浴槽の形が削り取られた形になっているので、端の座ジェットに座ると足が伸ばせずちょっと狭い。深風呂になっていて座る訳だから足を伸ばす必要もないのだが。

湯から上がると喫茶スペースでヨーグルメットを頂く。
フロントはおばさまに変わっており、さらに小声の接客。無愛想という訳でもないが・・。
次々入ったり出て行くお客達の愛想の方がとてもいい。
皆常連のようだ。
話せばきっといい人であるに違いない。
フロント脇に1010の95号が置かれていたので頂いた。
北区の銭湯は今日が初めてだったが、土地の条件も良いのかお客の活気が伝わってくる銭湯だった。


大きな地図で見る

2008年12月3日水曜日

50.大田区上池台 亀の湯

仕事が終わり、クルマで銭湯へ向かう。
大田区の銭湯を目指すが、今日は国の湯へ。

定休日が金曜日ということだが、到着してみてもまったく灯りが見えない。
どうやらシャッターが降りているようだ。
張り紙も全くなく、なぜ休みなのかが分からない。

後で調べてみると・・
廃業(と思われる)東京都銭湯リストに2008/4/30より休業しているとの情報が。
楽しみにしていたのに。

仕方ない。事情はよくわからないが、一日も早く問題が解決して、復活してくれる日を心待ちにしたい。

ここから近くの銭湯となると、稲荷湯。
しかし水曜日が定休日なのでこちらは無理。
歩いて行ける範囲だと明神湯だがつい最近行ったばかりなので、少し離れているが亀の湯へ。

車で5分も行くと着く。
亀の湯の側には駐車スペースらしき空間があるが、銭湯マップには駐車場マークが付いてないのでやめておき、道路を挟んだ反対側のコインパーキングへ駐車。

亀の湯の全景を眺める。
面白いことに煙突が建物から7〜8メートルほど離れた位置に設置されている。
建物自体は和風伝統建築でなく、なんだか体育館のようだ。













暖簾をくぐり中へ。
番台の親父さんの背中が傘入れ上の窓から見え隠れしている。

下足を預け、引戸を開き中へ。少々立て付けが悪く手応えが重い。

親父さんから小さな声で挨拶をされたがよく聞こえず。
ドリンクはビールをはじめ、ビン牛乳などを販売。少々だが駄菓子も売っている。
女湯境の時計(普通の時計)周りには、浴場組合のポスターが年代を追って並べられている。ソファがあり、正面には腰の高さほどのロッカーがあるが、その上に大きな水槽。大きく育った金魚が何匹も優雅に泳いでいる。

天井を仰ぎ見る。
少々高めの天井だが、なんと花柄だ。
内側が高い二段型になっていて、それぞれ違う花柄となっている。
明るい色じゃなく、暗めの色なので花柄とはいえとても落ち着いたイメージだ。

確保したロッカー上にはイタチの剥製が。気になりつつもパパッと服を脱ぎ浴室へ。

とても広い浴室。
天井は一段型なので低い。
かまぼこのような形をしている。
ビル銭湯じゃないのに一段型は来たことがなかった。
湯気抜きが大変なようで、左右天井近くに設置されている換気扇がフル回転している。
それでも湯煙が立ちこめている。
湯煙の雰囲気は好きなので悪くない。

しかし奥行きが広い。
カランはずらっと並び、女湯境から9-8-8-3。
島カランは一つだ。
3つ並んだカランの側には立ちシャワーブースが三基あり、なんと立ちシャワーブースの中にもカランがある。
となると正しくは、9-8-8-6ということか。
かなり大型。

お客は3名のみ。
体をじっくり洗い浴槽へ。

浴槽は3つあるが、3つとも紫色の湯だ。
ラベンダーの湯だ。
けど、天然のラベンダーでなくバスクリン系の色。
すべての浴槽が紫色だとなんか妖しい雰囲気だなぁ。

L字型に浴槽が並んでいる。女湯境の下は座ジェットが二基。深風呂になっている。
湯温は45℃ほど。
久々にアツ湯だ。
御徒町の燕湯、田町の万才湯以来だ。
しかし、そこまでは熱くなく、適温よりやや高めといった感じか。

続いて広めで外壁側まで続いている浴槽へ。
ミクロバイブラと赤い赤外線ライトが設置されている。バイブラ力がすこぶる高く、時折泡の高さは30cmほどにもなる。
ここの湯温が一番高そうだ。バイブラの勢いでより体感温度は高く感じる。

一旦出て、立ちシャワーでクールダウン。

さて、残りの浴槽ヘ行こう。
カラン側へせり出したような形の浴槽で、隣の浴槽とつながっているので湯温もほぼ同じかやや低いくらい。
泡が少々出ているが少ない。
ここは座って背景をじっくり眺めるところか。

背景はタイルで海外の山脈が描かれている。
手前には洋風の民家。
そんな時、女湯の方から外国語で話す声が聞こえてくる。
この背景のせいで、雰囲気も外国のようになってしまうのだろうか。
しかしよくよく聞くと、やはり日本語ではなかった。
どうやら女湯側は国際色豊かな状態になっている模様。

じっくり温まり、湯から上がる。
気づくとお客は自分一人になっていた。
平日の夜、こちらの銭湯はさほど混み合うことはないらしい。アツ湯もいい感じだしおすすめだ。

女湯境の壁には植物がいくつも飾られている。
時計の形も立方体で緑色。モダンな感じで、全体的に昭和のモダン銭湯といった雰囲気がある。

さて、脱衣場へ。
コーヒー牛乳110円をいただきながら、金魚を眺める。
そこでやたら九官鳥の声で「こんにちは」が女湯側から聞こえてくる。
あちらには九官鳥がいるのだろうか。
親父さんにお伺いすると、「昔は男湯に置いていたんですけど今は女湯に置いてあるんですよ」とのお答え。とても気持ちのいい笑顔である。初めはむすっとした暗いイメージの親父さんであったが、その実は違ったようだ。

またいつか男湯側に置くかもしれないとのことで、またいつか来て様子を見てみようと思う。

コインパーキングへ。
なんとこのコインパーキングはおつりが出てこない。小さく注意書きがしてあり「おつりは出ません」とのこと。
400円の支払いだったが、500円玉を入れると、確かにおつりは出てこなかった。
今時何という不親切なコインパーキングだろう。

亀の湯には電車&徒歩で来るのが一番なのだなと感じた夜だった。