杉並区銭湯、湯あみランド永福を訪れた。
こちらの銭湯は井の頭通りから少し入った所にある。永福町駅からは歩いて一分、近くにコインパーキングもいくつかある。
煙突はコンクリートむき出しのもの。一見、電柱のようである。通りより眼前にその迫力ある姿を仰ぎ見る事ができる。
煙突の側を歩き、正面入口へと回り込む。
すると看板が夜の街に煌々と輝いている。
窓ガラスには「浴場閉店のお知らせ」が貼り出されている。そう、こちらの銭湯は1月15日、つまり今日をもち廃業なのである。理由としては従業員の高齢化、設備の老朽化があげられている。
設備が入口横に書かれている。露天にミスト風呂、設備が非常に充実している。廃業してしまうような銭湯ではないように見えるが、経営者にしかわからない事情というものがあるのだろう。
入口からしてモダン。円柱もあり、さながら宮殿のようである。湯あみランド、という言い方からして銭湯のくくりでは語れないような、そんな雰囲気を感じる。
入口は開け放たれており、すぐに松竹錠の下足入れ。
靴を預け、左手の自動ドアから中へ。
広めの休憩所にはソファと丸いすがあり、10人は座れそうである。テレビもあるがアナログ。壁は鏡張りとガラスが基本で、少し落ち着かない。通りを歩く人々の表情もよく見えるし、逆によく見られもする。
フロントの親父さんは浮かない表情。いらっしゃいのお声も頂けないが、湯賃をお渡しし、右手の男湯へ。
廃業当日ともなるとこちらの想像もつかないような想いがこみ上げているだろう。接客を求めるのは間違いであるかもしれない。
脱衣場は混み合っている。こちらもモダンな作りだが、天井は高く、改装される前の浴場の姿はどんなだっただろう。今となっては知る由もないが想像を駆け巡らせるだけで楽しむ事ができる。
体重計は腰までの高さのデジタルでKUBOTAのもの。
和風を感じるものはないが、縁側があり、でると庭と池がある。鯉などは泳いでいないし、木も中途よりスパっと切り落とされているのが少々物悲しい。庭の横には一段高くなって露天風呂がある。浴槽の中に設置されている照明が湯の中から美しく光を放っている。
最終日だけに次々と湯客が入ってくる。
20代から50代くらいまでと幅は広い。お子さんをお連れのパパもいらっしゃる。
外壁側のロッカーを確保する。ロッカーの上側は窓になっており向こう側はカランスペース。その壁はランダムチップタイルで天使が描かれている。どこのランダムチップタイルで描かれた絵よりも芸術的な描写である。天使は黒と灰色と白を使い描かれている。
パパッと服を脱ぎ浴室へ。
中もまたモダン。女湯境がサウナ室になっていて、そこ全体が女湯側を含めて円柱のようになっている。サウナ室の入口の向かいに水風呂、サウナ室の外側にカランがぐるっと並び、奥の壁もカラン、浴槽群は外壁側に配置され、脱衣場の外壁側裏にカランが並んでいる所を抜けると、露天に出る事ができる。他で出会う事ができないような特徴的な銭湯である。
混んでいるとはいえカランも多く、訳なく確保する事ができた。湯客は10人以上。サウナ室を利用されているお方が多く、端で床に座り込み火照った体を冷ましている。浴槽の縁に座っているお方もいる。
体をしっかりと洗い浴槽へ。
広めの浴槽が一つ、そして個室があり森林浴風呂(ミスト風呂)だ、そして露天と水風呂の構成である。
まずは広い浴槽から。こちらにはミクロバイブラがあるが、残念ながら停止状態。湯温は41℃ほど。湯客はみなさん女湯境の壁を見ている。こちらの銭湯にはテレビが境の壁上に設置されているのである。ご丁寧な事に外部スピーカーまで設置してあり、音もよく聴こえる。
広い浴槽には座ジェットもある。水枕もあるが少し高い位置過ぎる。背の高いお方か、座高の高い方にはちょうどいいかもしれない。
続いて森林浴へ。
個室に入ると二人が入れるほどの浴槽があり、天井からはミストが終始降り注いでいる。特にフィトンチッドの香、というものはないがマイナスイオンをたっぷり浴びながらぬるめの湯に浸かるのは至極快適である。
続いて露天の岩風呂へ。
湯温は42℃ほど。天井はほとんど屋根で覆われているが外気も入ってくる。浴槽内の灯りが渋く温泉旅館に来ているような雰囲気がある。本日限りというのはもったいない限りだ。
湯から上がり、ロビーで一休み。ドリンクケースにはほとんど在庫もなく、相変わらずご主人は沈み込んでいる。お客がいらっしゃるたびに「お疲れさま」や、「とうとう最後だな」などと声をかけているがご主人は基本的に無口である。花束をお渡ししているお客さんもいらっしゃった。
駅前の良質銭湯、浴室のタイルが剥げ落ちて来ている部分もあったが、全体的にはモダンでまだまだいけそうな銭湯であった。こちらより鄙びた銭湯はたくさんある。それでもしっかり営業されているのであるが、湯あみランド永福はやんごとなき事情があり本日で廃業である。それは受け止めざるを得ない事実である。
通りを歩くと湯の香、シャンプーや石けんの香が街に漂っている。この香もこの街から消える事になる。そんな些細な日常の幸せが、どれだけ大切なことであったかに人々が気づく時、既に湯あみランド永福は存在しない。手遅れなのである。
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